-33- トロール狩り5

「暫く我々に任せて怪我の手当てを!」

「う、うぅ……。申し訳ない」


 僕たちの援護に回ってきた兵士にトロールを任せて、僕は一旦後ろに下がる。

 防具を身に着けて後ろに飛び退いたとはいえ、トロールの一撃は重い!ジンジンと痛みが残っている。それは、不幸中の幸いとしか言えない。

 何もしなければ骨折どころの騒ぎじゃなかった。その場であの世に行っていただろう。


「大丈夫?ポーションよ」

「すまない。謝ってばっかりだな……」


 僕はフラウから怪我を治すポーションを受け取ると痛みをこらえながら蓋を取り、一気に煽った。喉を通り冷たさが和らぐと同時にスーッと痛みが引いて行く。

 怪我に効くポーションと言えども骨折を瞬時に直すなど出来ない。単純骨折だったら一週間くらい。複雑骨折だと固定しておいて一か月くらい。それだけ治すには時間が掛かる。

 僕のは打撲程度だったから瞬時に痛みが引いたけど、完全に治るには数日掛かる。グローブを外せば色が変わっているのが判るだろう。


「それじゃ、こいつでリベンジだな」


 左の腰にぶら下げている兄から餞別でもらった業物の剣をスラッと抜き放つ。刀身の根元には切れ味を鋭くする回路を刻んだ魔石が埋め込まれているから、トロールと言えども敵ではないだろう。

 本当は普段使いの剣で仕留めたかったが、手を離れてしまっているから仕方がない。


 まぁ、この戦い以降は安全のために業物の剣を使うしかないだろう。


「それにしてもトロールは化け物だな。太腿に刺さったお前の剣を簡単に取り除いてるぜ」

「ほんと、あれだけ見れば化け物だな」


 僕が手放した普段使いの剣はトロールに刺さったままだった。

 その剣が邪魔になったのか、剣をむんずと掴むと強引に引き抜き明後日の場所へと捨て去った。使い込んでいるとは言え、ゴミじゃないんだけどなぁ……。

 後で回収しないといけないな。


 トロールの表情も化け物じみていると言えよう。

 普通、肌に刺さった棘を取り除くとしても痛みに顔を歪ませるだろう。それなのに、トロールときたら笑みを浮かべたまま剣を抜き去りやがった。当然、赤い血がたらりと流れ出ているんだから相当痛いと思うのだが……。

 もしかして、トロールって痛みを感じないのか?


 そんな事を思いつつ、トロールに殴られた腕の感触を確かめながら剣に魔力を伝える。


「今度こそやっつける、二人は僕と交代。ヴィリディス、援護頼んだぞ」

「任せろ!」


 トロールに苦戦している兵士に声を掛けてトロールにリベンジを果たすべく駆け出した。ヴィリディスに魔法の援護をお願いするのも忘れずに、だ。




 トロールは二人の兵士を攻めあぐねていた。

 実際、二人の兵士が巧みな攻撃を仕掛けていたのではなく、トロールに経験が足りていない、それだけだった。

 それでも膂力だけで二人の兵士を相手にするのだから侮れない。油断できる相手ではない。


 そして二人の兵士が少し下がり気味になったところで僕が合流し、そして前掛かりに責め立てる。


「経験不足だな!」


 兵士が下がり、僕が前へとポジションを入れ替えた。当然、前に出た僕に標的を移さなければならなかったが、トロールは僕への対応が遅れた。これこそ経験不足だと感じた瞬間だった。


 それを機にトロールを横薙ぎに切り裂く。

 僕の斬撃に完全に対応が遅れ刃を躱すことも受ける事も出来ず、切っ先は腹を切り裂いて真っ赤な鮮血を撒き散らした。

 直ぐに流血は止まったが、流れた血液からしてもかなりの深手を与えられた。


(これなら出来る!)


 僕は一旦トロールから離れて切っ先を横に構える。狙いは普段使いの剣で切り裂けなかった太腿。横薙ぎにするには少し低い位置にあるが、まぁ、大丈夫だろう。


 先程の攻撃でトロールは僕を脅威と感じとっていた。

 援護に来た二人の兵士を無視して僕に殺意を向けてくる。

 想定通りと言えばその通り。


 業物の剣に魔力を通す。

 刀身がほのかに白く発光した。


 さぁ、トロールよ。勝負だ!

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