-31- トロール狩り3

 ちらりと教授の連れた兵士に視線を向ければ二手に分かれた槍隊がトロールを待ち受ける。二人ほどこちらの援護に回って来るらしい。が、連携の取れた僕たちには邪魔な存在でしかないんだけど……。

 まぁいいか。

 援護に来てくれるだけ有難いと思おう。


 僕は荷ひもの金具を外して身を軽くする。

 その間にフラウとヴィリディスの牽制がトロールに飛んで行く。それによって一体のトロールが僕たちに狙いを定めて進路を外れた。


「んじゃ、やるか……」


 と、冷静に言ってるように思うだろう。

 だけどね、あの巨体がドシンドシンと向かってくるんだよ?

 怖いに決まってるだろ。

 対峙したくないのは誰でも一緒。

 それでも被害を抑える為には仕方がない……。

 追放されたとはいえ、貴族の出だからね。

 そう思いながら普段使いの剣を構え近づくトロールへ飛び出して行く。


 トロールなんてヘッチャラさ!なんてのたまう奴は信用しちゃいけない。

 飛び掛かるって言っても怖いものは怖い。

 その恐怖心と戦いながらじゃないとトロールと戦えない。


 森の奥で拾ったのか、僕の身長ほどもある大木を軽々と担ぎあげ振り下ろしてくる。

 流石のトロールでも片手で振り回すには無理があったらしく両手でだ。

 そこそこの大木を棍棒ように振り回されるのなら避けるのも大変だけど、トロールの体格にあってない大木を躱すのは何とかできた。

 余裕をもってサイドステップで躱すと僕の横を大木が通り抜け地面へと突き刺さる。

 少し後方で地面がクレーターになったのだろう。石礫が僕にぺちぺちと飛んできた。


 チャンス!


 無防備になったトロールの腕をスパッと切り裂く!

 腕の腱を切ってやった。これであの大木を振り回せまい!トロールが直ぐに傷が治るとは言ってもね。

 僕は更に追撃に移った。

 同じ個所を数度にわたって切り裂く。

 深く、深く、傷を広げ、ついにはトロールの腕を切断する事に成功する。


「やった!」


 鋭い一撃と共に地面へと落ちるトロールの腕。

 それを見届けると一度後ろへ飛び退いて距離を取る。


 さすがのトロールでも驚いて追撃してこないだろう。

 そう思いながらトロールを見るが、どうも様子がおかしい。違和感を感じると言った方が良いのかもしれない。


 そう言えば、後ろから援護が飛んでこないのだがどうしてだろう。

 それもおかしいと言えばおかしい。

 ふと二人に視線を向ければ恐怖に似た表情をしている。

 トロールに恐怖を抱くのは判らないでもないが、それとは少し異なる。二人の視線がトロールではなく、僕が切り落した腕に向いているのだから。


「うわぁ、気持ち悪い」


 思わず声に出てしまった。

 切り落とした腕がだよ、うねうねと動いているんだから。

 トロールに向かって動いている訳ではないが、一つの生き物のように動いているんだから……。

 それを見れば誰だって気持ち悪いって思うよ。

 始めて生き物を殺したりすればそりゃぁ精神的に衝撃を受けるけど、それとはまた違う衝撃を感じる。


 それともう一つ気になることがある。

 腕を切断した筈なのに、流した血の量が少ない。

 人間離れした治癒能力のおかげで切断した腕もそうだが、切断面が綺麗になっているんだ。

 うん、無理。

 生き物として認められない。

 殲滅確定……。


 そう思いながら暫くトロールを観察していると僕を攻撃するでもなく、切断された自らの腕をむんずと掴むと、それを切断面を合わせるようにくっ付けた。

 って、それ、くっ付くの?

 うわぁ、気持ち悪い。いや、キモい!

 何とも形容し難い動きをしながらトロールは何事もなかったかのように腕をくっ付けた。

 それ、反則だろう。


 魔物図鑑にあったように傷口を焼いてしまわなければならないってのがよく分かった。

 脅威に感じるほどの魔物だけど、ヴィリディスの援護があれば何とかなりそうだ。


「ヴィリディス、援護頼むよ!」

「……お、おう。今度こそ任せておけ」


 トロールのあの反則じみた治癒能力に面食らっていた僕たちは改めて脅威となるトロールへと向かうのだった。

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