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 サラゴナの街に到着して一泊して、翌日になった。

 さすがの僕も昨日は宿に入ると即座に寝入ってしまい、朝までぐっすりだった。やはり野営を続けていると睡眠が不足気味になるのは否めないな。

 えっと、フラウとはどうしたかって?

 いやいや、流石にそんな気力は無いよ、二人共ね。

 今は宿での朝食を終え、三人で街中をぶらぶらと歩いている。


「今は何処へ向かっているんだい?」

「朝市」

「何かお目当てでも?」

「教授にお土産を持って行こうかと」


 ”教授”


 それがサラゴナの街に来た目的である。


 王立高等教育学院の教授である。

 専攻は……、教えて貰ってなかった。

 ヴィリディス曰く、遺跡研究が主で魔法研究を手伝う、そんな事をしているらしい。

 授業は……、これも判らない。教えているのか?


 一つ言えることは王国で最高峰の学院に努めている身分のハッキリした人である。


 それにしても、そんな人に朝市でお土産とは、ヴィリディスは何を選ぶのか、想像がつかない。僕の興味が彼が選ぶお土産に向いてしまうのは仕方がない。


 ……よね?


「別に変なものを買おうとしてる訳じゃないぞ。ほら、見えてきた」


 ヴィリディスが視線の先に捉えたのはごくごく普通の屋台。

 間もなく冬に突入するこの季節に大量にとれる秋の味覚である。


「おはよう。取れたばかりだから新鮮だよ~」

「それじゃ、この蜜柑と梨を包んでくれ」

「毎度あり~」


 紙袋いっぱいに詰め込みお代と引き換えにヴィリディスへと渡してくる。

 その量を見ているだけで、ほんのりと甘い香りが漂ってくる気がする。

 ん、気のせい?


 それを加工してパイやタルトにするかと思ったが、そのまま持って行くそうだ。

 お酒類も好きだが、フルーツ類も大好きなのだと。


「それじゃ、このまま訪ねるとするか」

「この時間に行っても大丈夫なのか?」


 と言いながらもすでに日は昇っている。職人はすでに働き出している時間だ。

 ただ、教授と呼ばれる人種は朝が遅いイメージがある。

 夜遅くまでレポートを作り上げ、徹夜するというイメージ。

 それをヴィリディスに伝えると彼は笑ってそれを否定した。


「お前、面白いな。全部が全部そうとは限らないだろう。それに教授はサポート要員だ。手伝いはするが主として動いていない」


 僕のイメージとは少し違うようだ。


 流れとしては……。


 日が昇ると共に起きだし、主幹が使用する機材の用意。

 起きてきた主幹と共に朝食を食べ、一休みしてから実験。

 一日終わったら夕食。


 その日の実験をまとめて主幹に提出。

 主幹は提出された資料をもとにレポートを作成する。

 レポート作成は後日の時が多い。


 これが大まかな一日の流れになるそうだ。

 サポート要員なので当日は忙しいが、終わってしまえばそれ程忙しくないのだと。


「だから、この時間が一番最適ともいえる」

「朝食を食べた後の時間ねぇ……。でも、実験が始まってるんじゃないの?」


 フラウが告げたように、僕もそう思った。

 日が昇り始めて結構な時間が経つ。僕らのような冒険者だったら街の外へ向かってても可笑しくない。


「大丈夫だと思うぞ」

「その根拠は?」

「助手は沢山いるだろうからね。教授の肩書を持っているんだ、そこまでこき使わないだろう。オレみたいな出身が何処か知らぬ一般市民だったらこき使われるだろうけど」


 確かに専攻は違っても王立高等教育学院の教授だ。

 余っている人的資源!と呼ぶような人たちとも違う。


「だから訪ねれば時間を取ってくれるはずだ。まぁ、そこまで時間を掛からぬと思うがな」


 そんな事を言いながら、街の外へ行くために東門へと足を向ける。

 教授のいる場所は街の外。王都騎士団が遠征と称して使用する訓練場。


 広大な訓練場で何を行っているのか、僕には想像すらできなかった。






※秋の味覚:フルーツ

 蜜柑はともかく、梨は洋ナシです。

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