-25-
僕が三国一の幸せ者であると判明してすでに三週間。
やっとのことでウェールの街から西へ向かい三つ目の街、サラゴナに到着した。
ヴィリディス曰く、ここが目的地であると。
途中の街や村などで簡単な依頼を受けていたから少しばかり時間が掛かった。
ただ移動するだけだったら二週間も掛からずに到着できるんだけどね。
金策も多少行ってきたって所だ。
その間にフラウとヴィリディスのスキルカードを見せてもらったけど、メイドのマリアに見せて貰ったのと同様、何の文字も現れなかった。いや、見えなかった。
やっぱり僕のスキルカードにだけ反応するみたい。
それが判っただけでも大きな収穫と言える。
……よね?
そうそう、サラゴナに到着するまでに一つ、思わぬ事実が発覚した。
それは僕が兄から餞別で受け取ったあの業物の剣についてだ。
何時も左の腰にぶら下げ、余りの切れ味に自分の腕が上がったと錯覚してしまうから使いどころが難しい。だから、殆どメンテナンスをしないでもよかった。まぁ、多少は磨いたりしているから皆無って事は無いけどね。
何故発覚したかと言えば、普段使いの剣をどうしても街の鍛冶屋に出さなければならなかった時に、うっかりと何時もの装備で行ってしまったんだ。右腰に普段使いの剣、左腰にはこの業物の剣をぶら下げてね。
そうしたら鍛冶屋の主人が業物の剣を興味深そうに注目して来たんだ。
その視線に気付いた僕は鍛冶屋の主人に訪ねたんだ。
ちょっと鋭い切れ味のこの剣が興味あるのか、と。
そうしたら何と言われたと思う。
『あぁ、能力を出し切らずに飾られているだけなんて勿体ない』
だよ。
失礼しちゃうよね。
と思って反論を混ぜて言ってやったんだ。
”ちゃんと使っているぞ”、と。
でも鍛冶屋の主人が言いたいことは違ったんだ。
この剣、一種の魔道具だった。
刀身の根元。ここに隠されているけど魔石が埋められているのだ、と。
魔石は錬金術師が魔法陣と言う回路を水晶に封じるようにして作られる。
その魔石に魔力を流して振るう事でこの剣の真の力が引き出せる、と。
それを聞いて僕は思ったね。
なんて物を僕に渡してきたのかと。
ただ単に切れ味鋭い業物の剣と思っていただ、とんでもない。それ以上の武器を渡されたんだから、驚くのは当然。心臓が止まるかと思ったよ。
と言うか、何処で手に入れたんだろう、この剣?
それはともかく、その後、この剣の実力を知りたくて魔物退治を引き受けた。
敵はゴブリンだったけど。
運よくゴブリンの群れと遭遇した僕たちはすぐさま行動に移った。
フラウは弓で牽制し、ヴィリディスも魔法で迎撃。
その二人の援護を貰いながら僕はゴブリンへと近づき近接戦闘へと移った。
そして剣に魔力を流して切りかかったんだ。
その感想だけど……。
うん。
使うのは止めよう。
明らかにオーバースペック。
ゴブリンが僕の攻撃を受けようと太い棍棒を構えた。両手でしっかりと持って。
これが普段使いの剣だったらゴブリンが持つ太い棍棒を切り裂いて血祭りにあげる、なんて出来ない。身体強化魔法で強化されたゴブリンは易々と受け止めただろう。
でも、業物の剣は違った。
まずゴブリンが持つ太い棍棒を切り裂いた。
それで驚くのは当然。だけど、手が止まらなかった。
そのまま勢いに乗せて地面まで剣を振り切った。
そう。
僕は何の苦労もなく、魔力を流しただけで達人級の剣の使い手になってしまったんだ。
これには思わず、”はぁ?”と、呆けた声を上げてしまったくらいに驚いた。
当然、その後はゴブリンを全て駆除し、意気揚々と依頼の完了報告を行ったのは言うまでもない。
ただし、僕の心はなるべく業物の剣は使わないようにしようと決意をすることになったのだが……。
その決意がこんなにも早く崩れ去ろうとは思いもよらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます