-27-
サラゴナの街の東門を出て南東へと足を向ける。
一面の草原ではあるが、その向こうには低い壁で囲われた場所が見える。
そこに目的の教授がいるはずであるが……。
「あれ、なに?」
フラウが唖然とした表情でそれを見つめる。
うん、わかる、わかる。
僕も同じだ。
足を止めて唖然としてると思う。口には出してないけど……。
「恐らくあれが今行っている実験なのだろう」
低い壁のさらに先。
ドッカン、ドッカン、と爆発音が聞こえる。
先程までは聞こえていなかったのは何かの魔道具で音の伝わりをシャットアウトしてたからなのだろう。近くまで近づいて初めて判るのだから。
それよりも、耳が痛いんだけど……。
鼓膜が破れそうだヨ。
「五月蝿いのはしばらく我慢するしかないな。もしくは、耳栓をした方がいいかも知れない」
ヴィリディスも爆音が響く実験は予想外だったらしく、ドカンドカンとなる度に顔をしかめていた。我慢するのを諦めたらしく僕たちに耳栓の着用を進めてきた。
耳栓と言っても千切った布を丸めて耳に突っ込むだけ。それでも音を遮断出来てホッとする。ただし、会話ができないのが致命的だ。
「ぷぷぷ、コーネリアスの顔、面白~い!」
「フラウの耳からなんか生えてる!」
と、面白ことを言い合ってもお互いに聞こえないのだからね。
悪口を言い合っても判らない。
まぁ、言わないけど。
耳栓をして低い壁沿いを歩くこと五分。
ようやく入り口が見えてきた。
低い壁に遮られているとは言え、その向こうは王国の管理地。無断で立ち入ればどんな刑に処されるか判らない。ましてや、ドッカンドッカンと魔法の実験が行われているのだ、うっかりと手が滑って僕たちを殺めてしまう、なんて未来も見えたりする。
流石にそんな未来は御免被りたいので正面から堂々と訪ねるのだ。
やましい事も無いしね。
僕たちが入り口にたどり着いたとき、丁度実験がひと段落下らしく、ドッカンドッカンとの爆音は聞こえてこなくなっていた。これは幸いと歩哨の兵士へと要件を伝える。
「おはようございます。ヴィリディスと言います。こちらにいらっしゃる王立高等教育学院のクリガーマン教授にお目にかかりたいのですが?」
歩哨の兵士は僕たちに怪訝な視線を向けてくる。
冒険者カードを見せたとはいえ、一般市民には変わりない。
胡散臭い三人が王立高等教育学院の教授に用事があるなど普通なら思わないだろう。
ただ、ピンポイントで教授の名前を口にできる一般市民は少ないだろうから、それなりに信用はされるとは思うのだが……。
「教授ね……。聞いてくるから少し待っててくれ。えっと……」
「ヴィリディスです」
「うん、判った」
兵士はヴィリディスの名前を確かめると、そこを離れ天幕が建っている方へと向かって行った。ただし、その行動は散漫と言っても良いかもしれない。
兵士は僕らを胡散臭いと見ていたんだ。ヴィリディスの名前を一度で覚えられる筈も無い。それが判っていたから怒りもせずに淡々と自らの名前をもう一度名乗ったのだろう。
大人な対応だな。
これが短気な性格だと……。
いや、訪ねる相手は王立高等教育学院の教授であり、対応したのは王都の兵士だろう。下手な口を聞いて投獄されるのは御免だな。
短気な性格でも大人しく自らの名を名乗るだろうな、きっと。
そんな事を思いつつ、三人で暫く雑談に更け込む。生産性の欠片もない雑談なだけに盛り上がりつつあったが、兵士が見ている手前大声を上げる事は無かった。
ただ、盛り上がった事だけは確かだ。
暫くすると先程の兵士が戻ってきた。
よく見ると眉間にしわを寄せていた。
何となくだけど、僕たちがを通すのが釈然としないのだと思う。
「教授の下へ案内するからついてこい」
ね。
口調もぶっきら棒だ。
そんな兵士に連れられ、僕たちは一張りの天幕へと案内された。
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