-14-
ヴィリディスの顔色は真っ青だ。
陰気な雰囲気を醸し出しているから何となくそう思うかもしれないが、今日の顔色はまぎれもなく真っ青。よくぞそこまで血の気が引いたな、と思うくらいに。
その理由も何となくわかる。立ち入り禁止のロープが張られている事に理由がある事くらい。
しかし、ロープの先に何があるのかはまだわからない。
騎士が封鎖しているのだから何となくは予想がつくのだが……。
僕の横でヴィリディスの呼吸が荒くなる。
それをフラウが背中をさすって和らげようとしている。
後はヴィリディスを何処かへ座らせて休ませるくらいしか、僕たちにはできない。
そんな調子のヴィリディスを暫く休ませることにしたが、僕たちの行動を怪しんだのか歩哨に立つ騎士の一人が近づいてきた。
殺気は無いから、”怪しい奴が来た”位にしか思っていないといいのだが……。
「すみません、連れが気分悪くなったみたいで……」
演技でなく、血の気の引いたヴィリディスの顔を見れば騎士も納得するだろう。
とりあえず、ヴィリディスに変わって情報収集してみるとしよう。
「突然か?仕事の邪魔さえしなければ良い。具合がよくなったら立ち去るが良い」
「ありがとうございます」
僕はぺこりと頭を下げた。
男爵位を剥奪されたとはいえ、十歳までは貴族の教育を受けてきたのだ。それなりに会話をする自信はある。まぁ、実践したことは無いけどね。
「つかぬことをお伺いします。ロープが張られているってのは何かあったのですか?」
僕の記憶が正しければ、こんな一般市民のアパートでロープを張って立ち入り禁止にするなど見た覚えがない。家を出たのがこの間と考えればそうなんだけど、男爵家にいた時だって聞いたことがない。噂にもね。
まぁ、爵位持ちの邸宅に何かあればその噂位は耳にしていたけど……。
その理由は後付けに過ぎない。
最も重要なのは、ヴィリディスの具合が突然悪くなった事だ。
ロープで仕切られているその向こう、そこが彼に関連する場所、そして人物がいるはずなのだから。
「ん?首を突っ込むのは感心しないぞ」
「いえ、伺っただけです。もしかしたら仲間の知り合いって可能性もあったので……」
騎士にそう言ってから、道路の端でうずくまっているヴィリディスに視線を向ける。
「そうか……。彼は住人と知り合いだったのかな?それだったら余り関わらない方が良いかもしれないぞ」
「それは?」
なんとなく言葉を濁していたので伝えたくは無いのだろうとは思ったが、あえてその先に踏み込んでみた。
「ここの住人。周りに聞き込みをしたところ、何かトラブルを起こすような人ではなかったらしい。それがな、わき腹を刺されてしまっていたんだ。どんな状況化は判るだろうから、大きな声では言えんが……」
騎士は一旦言葉を切って、僕の耳元に顔を近づけぼそりと蚊の鳴くような声で続きを口にした。
「刃傷沙汰が原因ではなく、毒が原因で殺されていたようだ。刃に塗られてたな」
「ど……!!」
騎士の言葉に思わず叫んでしまいそうになったが、すんでの所で口を押さえて言葉を掻き消した。そのまま叫んでいたら大変なことになっていただろう。
それからすぐに騎士は僕の耳元から離れ、”首を突っ込まないでくれると助かる”と目くばせをしてきた。
騎士はその後も話せる範囲で僕に経緯を教えてくれた。
発見は隣家の住人。何か生臭い匂いが漂ってきたために騎士に通報。それが第一報だった。
押し入って調べると死体を発見。凶器は見つかっていないが、ナイフに刺され毒を体内に入れられた事が要因であると断定できた。傷跡の周囲が黒く変色していた事がその証拠であると。
それを聞き、そんな事があるものだなぁ、と感心したのと同時に、見ず知らずの通行人に重要事項をべらべらと喋っていいのかとも思った。
だけど、よくよく周りを観察してみると、誰もがそれを知っていたらしく、喋ったところで大きな騒ぎにもならないようだった。
人の口に戸は立てられぬという。だが、箝口令は敷かれてないのでそれが当てはまるかと言えばそうではないだろうが……。
とりあえず、必要なことはしっかりと知ることができたので僕たちは気分が落ち着いたヴィリディスを伴ってその場を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます