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 あれから暫く経って今は昼食の時間の少し前。僕たちはフラウおススメの小洒落たカフェに来ている。衝立があって個室に見立てたテーブル席は何となく女性が忍んできて訪れる、そんな雰囲気を持っている。

 だが、客層はと言うと、女性グループが三割、男女のカップルが二割、そして商人とその取引相手が四割と言う構成だ。後の一割は判らない。何に見えるかは想像に任せよう。


 そして早速昼食を兼ねて注文をして、メニューが揃った所である。


「すまなかった」


 そんな個室然としたテーブルにメニューが並んだ早々、ヴィリディスは額をテーブルに擦り付けるようにして謝罪の言葉を口にした。

 許すとか、許さないとか、それはどうでもよかった。

 友人が具合悪いのに見捨てるなど出来ない、それが本心なのだから。


「気分が悪くなったのは仕方がない。僕だって予想外の出来事が起こればああもなるだろうから」


 そう伝えるが、ヴィリディスの顔はなかなか晴れそうに無い。明日になれば気持ちは落ち着くだろう。それまで待っていることにする。

 それよりもだ、あの場所で気分が悪くなった理由が知りたい。

 十中八九、歩哨の騎士に教えてもらったことが原因であるのは間違いないが……。


「あそこの住人と懇意にしてたのか?」


 殺されていたのは事実だが、この場では口にしない。

 さすがの昼時だ。

 物騒な発現は極力抑えたい時間だ。

 冒険者で魔物と血生臭いやり取りをしているとは言え、だ。


「その通りだ。実は連絡を貰う筈の日を過ぎても音沙汰が無かったから心配してたのだ」

「なるほど……。この数日機嫌が悪かったのはそれが理由か」

「もっと早く話してくれても良かったのに~。仲間でしょ」

「そうだな。反省してる」


 三日ほど前からヴィリディスの様子が可笑しかったのは前に伝えた通りだ。

 その理由が、ヴィリディスに入る筈の連絡が滞った事。三日前と言うよりももっと前に彼の下に連絡が来ていたはずだ。それが数日経っても手元に来ない。それで何かあったのかと心配したのだろう。

 更にヴィリディスが口を開く。


「で、だ。先日の依頼、あの時に不思議な事があっただろう?」


 先日の依頼。

 はて、どの依頼だろう?とその答えを頭に浮かべぬうちにヴィリディスが答えに導く手掛かりを告げる。その一言で僕たちは同じことを脳裏に描いた。不思議な事と言えばあの依頼だと。

 そう、レスタートンの街の領兵を主体とした大規模ゴブリン群の殲滅依頼だ。

 そこで不思議なゴブリンを狩った。

 身体強化魔法を使えるはずのゴブリンがそれを使って無かったのだ。不思議としか言いようがない。


「その調査を頼んだんだよ」


 アレは僕にもヴィリディスにも説明しろと言われても、説明できない。

 ずる賢いゴブリンが身体強化魔法を始めから終わりまで使わなかったのは可笑しいのだから。

 まぁ、あれの考えなどわかる人はいないだろうから、永遠の謎ではあるだろう。


「なるほどね……。それで何かわかったと?」


 僕はなるほどと思いながら相槌を打つ。

 だが、ヴィリディスは首を横に振って否定した。


「そうじゃない。何かわかってもわからなくても連絡を貰うようになってる」

「結構律儀なのね~」


 手紙を出すのだから律儀であると言えるだろう。しかも、何もなくても一定期間経ったら強制的に、である。


「いや、そうじゃない。連絡を貰うのは生きるためだ」

「生きる為?」


 生きるために手紙が必要か?と言われれば誰でも首を傾げてしまうだろう。僕もそうだ。生きるために手紙が必要になるのかと。


「俺もそうなんだが、何かに没頭すると時間を忘れるんだ。何も食べずにずっと研究している。そうすると研究の最中でも倒れるんだ。それを防止するために報告を送ってもらう事になってる。まぁ、文面は一行でも構わないんだけどな」


 そんな事をさらっとヴィリディスは口にするのだった。

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