-4- ヴィリディス2-1(1/3)

 闇夜に浮かび上がる空に浮かび上がる下弦の月。

 誰もが眠りに就き、起きているのは一握り、と言う所だろうか?

 かくいうオレも起きているその一握りに入っているのだから何も言えないが。


 ウェールの街はかなり古くから存在している。

 有史以前から存在するなんてことは無いが、千年は下らないだろう。

 いや、数百年か?良く知らんな……。

 そんなウェールの街の始まりは一軒の農家だと聞いているが……。

 まぁ、そんな事はどうでもよい。

 今日の目的はそんな事ではないのだからな。


 フラウとコーネリアスの二人と別れて既に二週間。

 その間に魔法の実験とゴブリンどもの生態を調べていた。それが纏まったのが今日だった。


 暗がりを進み、誰の姿も見えぬウェールの暗部に足を踏み入れる。普通ならばこの場所に足を踏み入れただけで首が飛ぶがオレは一応許可証をもっているからそんな事はされない。だが、こうやって首からぶら下げてる許可証を奪われてしまえばその限りではないがな。


 頭からローブを被っているとは言え、この許可証を見逃さずにいるのはさすがと言えるな……。

 っと、ここだここ。

 オレは朽ち始めのような扉を押し開け、入って行く。

 地下への階段が見える。そして、鼻を虐めるようなカビ臭。何とかならんのか、これは。

 いくら何でも酷いと思うぞ。

 まぁ、誰の侵入も許さない、と言うのなら判るが、この奥に人が住んでいるのだから改善してもらいたい。


 コツリ、コツリと小気味よい足音を残しながら階段を下りる。

 暫く降りると扉があり、オレはそれを押し開ける。


「おう、久しぶりだな。なんだ、そのしけたつらは。もっと景気よく行こうぜ。結構儲かったんだろう?」


 扉を開けた途端、奥にいた男から話しかけられた。


「客に向かってその口調はどうかと思うぞ、バシル!」


 オレはその男、バシルに言葉を返した。

 ここはバシルの住処兼仕事場。いや、仕事場兼資料庫と言った所か?

 今日の恰好は普段着だから書物を読み漁っていると見た。


 趣味で魔法や遺跡研究をしたいがために闇に溶け込むヤバい仕事をしている奴だ。

 怒らせるんじゃねぇぞ?


「客ねぇ……。ヴィリディスが客ってのは珍しいな。で、どうした?」


 魔道具の明かりを一段、二段と明るく設定し、部屋全体を見通せるまでに整えた。地下ではランタンや松明では酸欠の恐れがあるから明かりが必要ならば魔道具を使用するしかない。明かりの魔道具なら高価って事は無いので一般市民でも購入できる値段だ。


「景気が良いってお前が言っただろう。それに関してだ」

「遺跡に巣くってたゴブリンねぇ……。で、何か面白いものを見つけたと?」

「端的に言えばそうなる」


 バシルがテーブルに本を起きながらオレに近づいてくる。

 本を見ているというのは暇を持て余している証拠だな。

 世間一般の情報収集は欠かさないとは言え、オレたちの行動まで把握しているんだから……。そのおかげでオレの疑問も氷解することが多いが。


「面白いネタだったら、安くやっても良いぞ」

「ふん、それだったらオレの勝ちだな。今回は持ち出しは無くても大丈夫そうだ」


 オレは、バシルの挑戦に乗った、と鞄から用紙を取り出した。

 一見落書きに見えるような文様を描いた用紙を……。


「ふんふん、これは興味深いな。まぁ、直ぐ解読できるかは疑問だが……」


 バシルに渡したのは、ゴブリンが巣くっていた遺跡で見つけた文様。レリーフに使われただけの文様と思ったが、写している時に文字の様にも思えた。

 だから、今日、この場でバシルに手渡したのだ。


「出来るだけ解読して欲しい、期待はしてないが。一応、アイツにも頼んでおく」

「期待薄かぁ。まぁ、これの解読だけだったら持ち出しは無しで良いぞ」

「助かるよ」

「それ以外の仕事も受けてるから何時でも言ってくれ。格安でこの世から消せるぜ」

「物騒だな」

「物騒だぞ」


 古代遺跡の研究やら、魔法の研究やら、オレと気が合うのだ。

 だから、何か見つけた時にここへ持ち込むのがオレの仕事になっている。

 冒険者は資金を得るための隠れ蓑に過ぎない。


 だから、フラウとコーネリアスがくっ付こうが関係ないのだ。

 まぁ、あの尻には少しだけ後悔しないでもないがな。


「おっと、もう一つ。面白いものを見た」

「面白いものだと?」

「ああ、身体強化を使えないゴブリンなんだがな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る