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 炭と化したゴブリンだった物を避けながらゆっくりと奥を目指す。

 やはり入り口付近に陣取っていた個体は全てヴィリディスが放った魔法によって全てがゴブリンだった物体に変わっていた。残念なのは討伐を証明する左耳を回収できない事であろうか。

 左耳さえ持ち込めばそれなりに懐が潤うのだが……。

 まぁ、起こってしまった事は仕方がない。

 楽に調査ができると喜ぶとしよう。


 調査とは言っても、ゴブリンリーダーも討伐してしまったので出来る事は少ない。

 ゴブリンが残っていても数匹だろうからね。

 遺跡の調査は僕たちの範疇から外れているし……。


「何か見つかった?」

「ダメね。生きているゴブリンは見えないわ」


 フラウの観察眼でも見えないとすると、本当にこの巣は駆除を終えたと見ていいのだろう。

 地下通路を進んでいると小さな部屋がいくつも存在してる事に気づく。左右対称に綺麗に並んでいるのだ。その中が気になって慎重に松明をかざしてみた。

 が、ガランとしていてなにも無かった。もぬけの殻なのか、元々空なのか。


「どっちにしろ不思議な空間だもの。ワタシたちに関係があるとは思えないわ。先を急ぎましょ」


 何も無いと判れば用は無い。それにこの地下通路が何処に繋がっていて、どんな役割を持っていたかなんて、僕たちには関係ない。さっきも言ったように調査は僕たちの仕事の範疇を超えている。


 とは言え、ゴブリンが残っていないかは重要だ。

 もし、残っていると再びゴブリンの巣として活用されてしまう可能性は捨てきれないからね。一匹でも駆除できればそれだけお小遣いが増えると考えれば、力も入るというものだ。


 そう思いながら通路に沿って設けられた狭い部屋をしらみつぶしにする事十数個、対には通路の終点へとたどり着いた。

 殺風景な通路の終点に椅子の様なものが置かれているだけだった。他には食い散らかされた動物だった残骸とか、そんなものが転がっているだけ。食生活もそこまで充実してなかったのだろう。

 だた、ゴブリンリーダーだけは十二分に食していたのかもしれない。


「ゴブリンの残党はもういないで結論付けて良いのかな?」

「良いだろう。ここが終点であるし、ゴブリンの姿は見えないからな」

「お宝も残ってないですから、帰りましょうか?」


 誰もが駆除の終わったゴブリンの巣から立ち去ることに同意した。

 そして、踵を返してそこから立ち去ろうとするのだが……。


「そう言えば入ってくる時は気が付かなかったが、この、二重の円は何だ?」


 僕たちが地上へ向かう階段の手前に差し掛かった時、ヴィリディスが首を傾げながら声を上げた。ゴブリンが転がっているから踏まないようにと気を付けてはいたが、床の模様には気付いていなかった。

むしろ、煤汚れていた床を僕たちの足で掃除して始めて発覚した、と言ってもいいだろう。通路の中ほどは僕たちの足が掃除して円の一部が露出し、脇に向かうと汚れがうっすらと付いていてよく見ないと判らない、そんな感じだ。

 そんな状態だ、一目でわかる筈も無い。


 確かにヴィリディスが口にした様に床に円が二つ描かれていた。

 同じ中心を持ち、それぞれ半径一・五メートル、一メートル強の円だ。

 何か意味があるのかと首をひねる。

 念のため鑑定してみるのだが、鑑定結果はさっぱりだった。

 僕が見たことも聞いたことも無いのだから、当然の結果だろうね。


「ヴィリディスは何か知ってるのかい?」


 始めに声を上げた彼に問い掛けるも、何もわからないと首を横に振った。

 ただの文様じゃないのか、と呟いてみるもディリディスは首を捻るだけで肯定も否定もしなかった。


「とりあえずここから出ましょ。鼻が曲がっちゃうわ」


 かび臭い匂いに”爆炎”が残した炭の臭い、そして腐りかけた動物の腐臭、それらが混じり合って酷い匂いが漂っていた。

 こんな所はさっさと出てしまい、仕事を終わらせようと思うのは当然の事であろう。


 僕たちは不思議な円を踏み越え、階段を上って地上へと戻って行った。

 その後、ゴブリンの死体の処理を早々に終わらせて宿営地に急いだ。


 遺跡の内部でゴブリンの残党を見つけようと虱潰しにしていた冒険者やゴブリンの死体を集めていた領兵がすでに引き上げ始めていた事を受けてだ。本当はこの地下遺跡を見つける前にはわかっていたんだけど、ボーナスを上乗せしたいって気持ちが強かったのは否めない。


 まだ日が高いこの時間に引き上げるという事は、これ以上捜索しても報酬が増えないと断定したのだろう。

 見つけた巣はともかく、討伐したゴブリンリーダーの首やその取り巻きだったゴブリンの左耳を提出しなければ報奨金が貰えないかもしれないと焦るのだった。


 その判断もあって、僕たちは無事に討伐した全ての首や左耳を提出し、ホクホク顔で討伐依頼を終えたのである。

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