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「現れないわね……」
「現れないな……」
「フラウの見立て通りって事だね」
大木の洞に歩哨として立っていた二匹のゴブリンをヴィリディスの魔法で倒した後、しばらくそのままで待機していた。当然、警戒態勢のままである。
だが、歩哨が倒れたというのに、新たなゴブリンは現れず、僕たちは首を傾げていた。
外からも中からも、である。
「どうしたんだろうね。姿を見せないって事は
そんな疑問も飛び出す。
今のは僕の疑問だけどね。
たぶん、似たような疑問を二人も考えているんじゃないかな?
「それは無いだろう。恐らくだがあの洞の奥は深くなっているのだろう。歩哨に何があっても気が付かないとオレは考える」
ヴィリディスはそんな僕の意見を否定した。
それも一つの意見だろう。否定は出来ないからね。
尤も、巣の外で音を出しただけだから伝わりにくいってのもあるのかもしれない。
しかも、全てにおいて可能性があるのだから質が悪い。
おっと、質が悪いのはヴィリディスじゃなく、あの巣穴にこもっているゴブリン共の方だ。悪い可能性を全て網羅しているんだから。
「そして、オレは良い手を思いついたのだ。聞いて驚くなよ」
さらに続けてヴィリディスがそんな事を口にした。
良い手があるらしいのだが、僕には何となく嫌な予感しかしない。
強引な手を使うような気がしてならないのだ……。
「あの洞に”爆炎”を放り込んで
思った通りだ。
悪い予感が当たった。
ヴィリディスの計画はこうだ。
まず、洞の中を覗いて見て深いかどうかを探る。ゴブリンを倒した”火矢”の爆発音が聞こえない時点でかなり深いと見ているようだ。
深いようだったらそのまま洞に”爆炎”を叩き込み、巣を一掃してしまう、そんな計画だった。
一日にそう何度も使えないが、”爆炎”一回くらいだったら余裕があるらしい。それに”爆炎”は炎ではなく爆風、つまりは高温の風を発生させる事に特化しているという。森林火災は起き難いらしい。
僕たちが洞窟などに潜っている最中には使えないが、こんな時にピッタリの魔法だとヴィリディスは力説していた。
魔法一発でゴブリンたちを殲滅できるなら安いものだろう。怪我をすることも無く、ある程度は安全を確保できるのだから。
そう考えるとヴィリディスの案は悪くない。
僕は賛成に傾きつつあった。
まぁ、威力偵察の範疇は越えてしまっているだろうが。
「うん、良いんじゃない。やってみる価値はあるでしょ」
「僕も安全が確保できる条件付き賛成」
「よしよし、そう来なくっちゃ」
僕とフラウの賛成で早速行動に移るのであるが……。
「結構深いね。何処まで続いてるのかな?」
周囲を警戒しつつ歩哨が立っていた大木の洞に近づく。
その洞の中へヴィリディスが生み出した明かり取り用の魔法を放り込んで見ると思った以上に奥へ、そして、地下へと続いていることが分かった。
しかも、大木と地面をくり抜いて洞窟にしていたと思っていたが、地下に見える場所は石造りの通路の様にも見えたのだ。
何処かの遺跡に繋がっている可能性を予感させられる。
「なるほど、遺跡ねぇ。これだったら”爆炎”を放り込んでも崩れる心配は無いな」
遺跡が崩れるかどうかはさておき、作戦の実行には問題ないだろう、と結論に至った。
これが遺跡の一部だったとして、仮に壊れたとしても生活には何ら影響は出ない。それに発掘するのは主に教会に関係する人たちだろうし、僕たちが口を閉ざしてしまったらここの情報は闇に葬られるだろう。
うん、問題ないね。
「良し、魔法を放り込むぞ。少し離れていてくれたまえ」
”爆炎”を見える限りの奥に放り込んだとしても、爆風は洞から吹き出てくるだろう。顔を覗かせていたら、その爆風で頭が吹き飛んでしまうかもしれない。そうならないようにと気を使ったのだろう。
ま、彼もその危険に注意する必要があるのだが……。
「良し、放り込むぞ。”爆炎”!」
ヴィリディスは”爆炎”魔法を躊躇なく洞の中へと放り込んだ。
※この世界の人にとって、遺跡は保護する対象ではないので破壊してしまっても良いと考えています。ただ、積極的に破壊しようとは思ってもいないです。
今の日本ではそんな事を考える人は少ないでしょう。
ちなみに、エジプトのピラミッドだって、盗掘目的で大きな穴が開けられているんですから。それと同じと思って頂いても良いかと?
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