-40-
二匹のゴブリンが歩哨に立つ巣の入り口に視線を向ける。それだけに留まらず周囲に視線を巡らせ罠ではないかとも警戒を怠ることはしない。ゴブリンだからと侮って先を争って剣を振りかざし、死んだ冒険者は数知れないのだから。
十匹のゴブリンを相手にした僕たちに仕返しだとばかりに大軍を送りつけてくるかと考えてもいた。だが、それが無かったのは僕たちを誘い出して罠にはめようとしているのではないかとも考えられる。
あれだけの数のゴブリンがいれば警戒するのは当然だよね?
ゴブリンたちは悪知恵が働く。
基本的には自分さえ無事なら同族がどうなってもどうでも良いって思ってるのだろう。
ゴブリンの思考なんて誰もわからないからね。
そのゴブリンが歩哨に立っているのは不気味だ。
しかも木の棒を尖らせて槍の代わりとしているんだから。
誰が見たって怪しい。
僕もフラウもヴィリディスもそう考える。
だけど、別の考えもある。
それは怯えているのではないか、と。
仮にゴブリンの上位種が隠れていたとしても、しっかりとした歩哨を立てて”ここに巣があり奥に何かいますよ”なんて示しているのがその証拠かもしれない。
これは臆病な人間が取る行動でもあるけどね。
「どう、フラウ。周囲にゴブリンは見える?」
「う~ん。それがね、何処にも見えないのよね。前にも、後ろにも」
「何処にも?」
「そう、何処にも。ワタシの見える範囲だと、あの二匹だけね」
巧妙に隠れていたとしてもゴブリンがフラウの目を欺けるはずがない。一瞬だけ視線を巡らせたのなら見逃しても納得するが、それよりも圧倒的に長い時間を掛けて巣の周囲を観察している。
今までのフラウの能力を見る限り、見えないなんてありえない。
「ヴィリディスもどう?何か意見ある」
「オレか?そうだな……」
フラウだけでなくヴィリディスにも意見を求める。
ゴブリンの生態となると彼にもわからないだろうが、この状況下でとなれば何か意見を聞けるかもしれない。そう期待したのだが……。
「オレにも判らん。判らんから、あの二匹を仕留めてしまうってのはどうだ。それなら何かわかるだろう」
そんな事を提案するヴィリディス。威力偵察って事だろうか?
歩哨が立つ巣にもう少し近づけはディリディスの魔法でも確殺できる距離になる。
僕はそれでも良いと思い、フラウへと視線を向ける。
「いいんじゃない?それで現れたら対処すればいいだけだし」
あっさりとヴィリディスの意見に賛成していた。
そうなれば行動に移るのは早かった。
僕たちはその場を離れて密かにゴブリンの巣に近づく。
深い森の中だ、隠れる場所は沢山ある。
ゴブリンたちは巨木の洞を守る歩哨が二匹だけで、その恩恵には
そして、ヴィリディスがゴブリンの巣を有効射程に捉えると、躊躇なく”火矢”を二発、連続で発射した。
”ボンッ!”と軽い爆発音が聞こえた直後、すぐに同じく”ボンッ!”と爆発音が耳に届く。ゴブリンたちにも何が起こったのか、理解する前に物言わぬ躯と化してしまった。
「やっぱり、すごい腕だな」
二回の爆発音が聞こえたほんの少し後には、”ドサッ”と歩哨のゴブリンが倒れる音も聞こえてきた。
「あのくらいはどうってことないさ」
同時に二射であれば命中精度は落ちるという。
僕も牽制として数個の石礫を生み出して打ち出すが、やはり命中精度は悪い。一回一回発動した方が命中精度は高くなる。
とは言え、連射の速度は驚異的である。
一射目がゴブリンに着弾していた時にはすでに二射目が発射寸前になっていたのだから。
フラウが弓を連射する速度に匹敵する、いや、それ以上と言っても過言ではないだろう。
その腕前にほれぼれしながら、新たなゴブリンが現れないか、周囲を警戒するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます