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「あぁ、予想通りだったよ。原因が判らないのは変わらないけどな」


 ゴブリンの攻撃を受けて、予想通りの結果を得られたとヴィリディスに伝えた。

 何度かゴブリンの攻撃を剣で受けたことがあるが、その時より確実に力が入ってない。身体強化魔法が使われてないと。


 彼も趣味的に魔法を研究しているだけあって、僕の報告の後、興味深そうにしてぶつぶつと何かを唱え始めた。頭の中で考えを纏めているが、納まりきらずに口から洩れてきているのだろう。

 こうなるとヴィリディスは暫く使い物にならないので、僕はフラウと共に周囲を警戒しつつゴブリンの討伐証明の左耳を切り取ることにした。


「八匹ですか……。この分だと森の奥にはまだ残ってそうですね」


 ザクリと耳を切り取り、皮袋に放り入れながらぼそりとフラウが呟く。

 倒木を切り出していたゴブリンが五匹、軽い倒木や切り出した木材を運んでいたのが五匹の合計十匹。そのうち二匹が逃げて行った。

 逃げたゴブリンが僕たちのような敵が現れたと報告に戻ったとして仲間のかたき討ちに来るのかは判らない。だけど、巣にはそれだけの戦力がまだ残っていると見て間違いないだろう。

 このまま巣に討ち入るか、罠を張って待ち構えるか。もしくは一度宿営地に戻り増援を連れてくるか、悩みどころではあるが、最終的に殲滅するには変わりない。一度、巣の周囲や戦力の多寡を調べておくべきだろう。

 余裕があるのだから。


「そうだな。あれだけの数が出て来てたんだ。相当数がまだ残っていると考えるべきだな」

「そうですね。注意しないといけないね」


 この後の方針をどうするのか、フラウに確かめようとするが……。


「あの調子ですから、暫くはここで警戒するだけですよ。まぁ、ゴブリンを追うのは決定でいいんじゃないですかねぇ」


 フラウはヴィリディスに視線を向けながら溜息交じりにそう告げてきた。

 ゴブリン討伐を証明する耳を切り取り、死体を一カ所に集めるだけの時間が過ぎたにもかかわらず、ヴィリディスはいまだに思考を巡らせていたのである。このままだと最低でも三十分は動けないだろうと考えると、溜息しか出ないのは仕方がないのかもしれない。







「待たせて済まない」


 そう言ってヴィリディスが思考を終えたのは僕たちが予想した通り、三十分も後だった。

 幸運だった事にゴブリンが仕返しに来なかったのは良かった。更に土を掛けてゴブリンの死体を隠したとは言え、血の匂いに引かれた獣の姿も見えなかったのも幸運と言えよう。

 あれだけ十匹もの数を外に出しておけるのだったら確実に襲ってくると思ったのだが……。

 その点に関してはフラウと共に、不思議不思議と首を傾げていた。


「ゴブリンを追い掛けようかとコーネリアスと話していたんだが、ヴィリディスもそれでいいか?様子見が主体となるけど、臨機応変に行動となるが」


 ”そう言えば、今はゴブリン討伐の真っ最中だった”、そんな事を思い出したのだろう。そんな表情を見せたのだから。

 更に小高く積み上げられた土を見れば、己の趣味にかまけて仕事をサボっていたと罪悪感を感じたはず。

 すまなそうな表情を見せながらヴィリディスは頷くことしか出来なかった。


「あ、あぁ。それでいい」

「なら決まりね。しっかり仕事を頼むわね。ヴィリディス!」


 ”出発しましょ”との声と共にフラウはゴブリンが残した足跡を辿って森の奥へと歩き始めた。




 それからゆっくりと十分ほど進んだ所でフラウは僕たちに身を隠すように合図してきた。ゴブリンの巣を見つけたのだろう。

 フラウが指で示す先にはゴブリンが二匹歩哨に立っているのが見えた。しかも先端をとがらせた槍代わりの棒を持った。


「しっかりとした歩哨を置くなんてゴブリンにしては珍しいな」


 僕が聞いたところによると、巣の入り口に歩哨を置くゴブリンは皆無ではないが珍しいのだ。しかも、二匹ともに武器を携えているのだから。

 それからわかるのは巣の中には上位種などの悪知恵以上に頭が働く奴の存在がある、と言う事だ。


「あの洞ね。中はどうなっているのかしら?」


 僕たちは二匹のゴブリンが守る、巨木にぽっかりと空いた洞の中に何がいるのか、不安を胸に抱くのだった。

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