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 突如現れた僕に敵意むき出しの視線を向けるゴブリンたち。

 とは言いながら奇襲じみた攻撃で仲間を殺られ及び腰になっているのは否めない。

 作業途中の彼等は何の武器も持ち合わせていない事も一つの要因であるのは間違いないだろう。


 しかし、それで逃げるかと言えばそうはならなかった。

 まず彼我の数的差だ。


 彼等の視界に映るのは僕一人。武器を持っていないとは言え五対一だ。人間の子供だったら武器を持っていない時点で逃げ出すのは必至。殺されるかもしれないからね。

 でも相手はゴブリンだ。悪知恵は働くが、己の生死については深く考えていないように思える。


 そんなゴブリンに僕は速攻で攻撃に移る。

 僕から見て左端に位置するゴブリン目掛けて飛び掛かった。

 今手にしている剣は兄から餞別としてもらった業物の剣。普段使いの剣に比べれて、何から何まで一段も二段も上位に属する。それを振るうのだ、軽く一閃しただけで簡単にゴブリンの首が飛んでしまう。

 素手で抵抗してもそれすら紙のように切り裂いてしまった。


「業物……すご過ぎるな。これでは剣の腕が上がったと錯覚する」


 鋭く、そして輝きを放つ業物の剣を使ってしまうと、剣術の腕前が上がったと勘違いしそうだ。乱戦には良いが、普段使いの剣はまだまだ使い続ける必要があるだろうね。


 一秒にも満たない思考が役に立ったのか、ゴブリンたちはその隙に、手に獲物木の棒を握り締めていた。


 ゴブリンたちの後ろからフラウとヴィリディスの攻撃が飛んでくる。

 確殺!とまではいかないがゴブリンを浮足立させるには十分だ。

 この隙に僕は懸案だった”ゴブリンが魔法を使っているのか?”を確かめようと行動に移る。


 わたわたと泡を食っているゴブリン一匹に攻撃を仕掛ける。

 大振りに大上段からの一撃。攻撃速度もそこまで乗せていない一撃だ。

 当然、ゴブリンは僕の一撃を後ろに下がりながら躱す。

 計画通り。


 ゴブリンが反撃に出る。

 棍棒未満、ヒノキの棒以上と思われる木の棒を振り回し、脚に一撃を食らわそうとしてくる。

 が、へろへろと速度の出ないゴブリンの攻撃を業物の剣であっさりと受けきる。

 ”ボグッ!”と何とも破壊力のない音と共にわずかな力が僕の手に伝わってくる。


(やっぱりそうだ。こいつら、力が入ってない。だからあんな弱弱しい武器しか扱えなんだ)


 ゴブリンだったら棍棒に等しい木の枝を扱うなど簡単なはずだ。

 それが棍棒も振り回せないほどの力しか発揮してない。明らかに身体強化魔法を使っていないと見て間違いないだろう。


 そうなるともうゴブリンに用は無い。

 僕に攻撃を止められ唖然としているゴブリンを即座に袈裟切りにして命を奪う。

 その間にもフラウとヴィリディスの攻撃がポツンポツンと届く。

 流石にこのままでは拙いと考えたのか、ゴブリンたちは尻尾を撒いて森の奥へと這う這うの体で逃げ去って行った。


「ふぅ、何とかなったか……」


 ゴブリンの血を振り払って業物の剣を収めると、突き立ったままで放置してしまった通常使いの剣を回収に向かう。

 深々と突き刺さった剣を抜くのは大変だった。

 そのまま抜こうとすれば軽いゴブリンの身体ごと浮かび上がってしまう。ゴブリンを踏みつけながらぐりぐりとこじるようにして、やっと剣を拐取することができたのである。意外と大変だった。


「お疲れ様。作戦通りね」


 遠くから援護に徹してくれた二人がゆっくりと姿を現す。

 立てた作戦通り、ある程度のゴブリンを駆除できたし、数匹は逃がすことに成功した。

 逃げた方向にゴブリンの巣がある事は間違いないだろう。


「それでどうだった?予想通りか」


 好奇心旺盛な子供かと思う程にヴィリディスの瞳は輝いていた。

 まぁ、その気持ちは判らないでもないが、こんな所でその瞳を向けられると、少しだけドギマギしてしまうのは否めない。

 少し陰気とは言いながらも、彼も結構な美形であるのだから……。

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