-28- ヴィリディス1-2(2/2)

 そんなオレでも何とか冒険者を続けられた。

 稼いでは本を漁り、稼いでは魔法に没頭する。

 貯金なんかある訳ない。

 生活に不可欠だったり、必要な装備にはもちろん金を出した。

 使ってしまうから貯めるのは大変だったが。


 いっちょ前に装備を整え、魔法も使え、農家の倅でそこそこ体力があったから何とかなったってのがその頃だな。

 宿暮らしは食事なんかを作らなくてよかったからホント、助かったぜ。


 そういこうしているうちに三年も経ってしまった。

 殆ど知り合いはいない。冒険者ギルドでカウンターに座る係員だけ。

 何もない時は引きこもっているからな。


 だが、オレにも声を掛けられることがある。

 冒険者ギルドの裏手、訓練場で魔法の練習をしているからそれを見たんだろう。

 魔法の腕はそこそこ自慢できるくらいだと思う。

 百メートルは言い過ぎだが、五十メートルくらい先の的だったら当てられるぜ。何発も大盤振る舞いできないけど。そこそこの威力だったら、まぁ。そこは察しろ。疲れるんだよ。


 人との会話が苦手なオレは、迫られると仕方なく首を縦に振ってしまう。どうして良いか判らないってのが理由だ。人付き合いに慣れればそんな事無くなるのか?

 その迫られた結果、手伝わされたのはゴブリン退治の仕事だ。


 そこまで割に合うかと言えばどうだろうな。人助けと言う意味合いの方が大きいかもしれない。一匹二匹なら、ウロチョロしてても敵じゃない。”火矢”一発でぶっ殺せるし。

 顔面に命中すれば脳漿を撒き散らして汚い花火を上げるぞ、アイツら。


 おっと、口が滑った。すまん。


 そのゴブリン退治、オレを含めて六人。

 よく見れば俺よりも若い奴らばかり。

 いかにも”村から出てきました”って恰好ばかりだ。

 人の話を聞かないな。っと、オレもその一人か。

 だが、オレはすでに三年目。初心者からちょっとばかし踏み出したって所かな。生き残ってるから。


 依頼のあった森の中へと進んだ。

 背の低い女が斥候役で一緒にいたんだ。それがゴブリンの巣を見つけてきた。

 ゴブリンは洞穴なんかを作って住処すみかにするんだ。通称ゴブリンの巣だ。

 そのゴブリンの巣の前で複数のゴブリンが屯しているって言うんだ。

 コレ、罠だなって思ったよ。


 あからさまに何かをしているのは怪しいって思わなきゃな。

 それに奴らは悪知恵が働く。


 そんなオレがちょっとでも意見を口に出来れば違った未来になっていた可能性もあったが、その前に若い奴らはさっさと飛び出して行っちまいやがった。

 ポカンとしてたのはオレと斥候役の女だけ。

 決して、女が魅力的で視線を奪われたからじゃないぞ。

 いいか、違うからな。

 確かにあの尻は良い……。


 だから違うって。


 罠と思えば慎重になるだろうが、若い奴らは何も考えてなかった。

 それは事実だ。

 ゴブリンなら勝って当たり前。話題の中心は自分たちだって思ったんだろう。

 だが、訪れた結果は異なった。


 オレと斥候の女、--その時フラウだと知った--と、こっそりと巣に近づいたときにはもう誰も生きていなかった。

 何匹かのゴブリンと仲良く天に向かったが、それまでだ。


 オレが思うに、屯していたのは罠だったんだろう。

 奴らは命の値段が安いからな。仲間の命なんてこれっぽっちも考えてない。

 だから屯させることによって罠を作ったんだ。仲間の命を使って。

 屯している奴に襲い掛かって打倒し安心したところを背後からボカッと一撃。それでお終いさ。


 残念なことにオレたちの依頼は失敗。

 だけど、オレとフラウは生き残ることができた。

 死んじまったら何にもならないからな。


 そこからだ、フラウと時々仕事をするようになったのは。

 お互い生き残る自信だけはあった。慎重に依頼を選び、手に負えなさそうな依頼には飛びつかない、これを信条にしたからな。


 そして、今、オレの目の前には魔法の成長限界はからっきしな癖に、その魔法を絡めた戦いに長けた男がいる。

 フラウは確かに魅力的だが、この男の方が研究し甲斐がありそうだ。

 そう思うとわくわくする。


 こんな気分は久しぶりだぜ。

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