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「ふむ、ゴブリンがあの体躯であれだけの速度で走れるのが気になるのか?」
ヴィリディスが手を動かし続けながら、僕の呟きに力強く返してきた。
僕の呟きに反応したのも驚くが、こんなにも声が出るのかと、そっちに大いに驚く。
「あぁ。不思議じゃないか?」
「不思議?」
僕はゴブリンが祝福の儀を受けていない子供ほどの体格で、しかも餓死寸前と見えるほどに細っていて、大人顔負けの速度で走るのが気になってしまった。以前だったこんなにも気にならなかっただろう。
魔物だからと言われても納得できないのだ、今は……。
そんな事をぼそりとヴィリディスに伝えた。
すると……。
「なるほどね。と言う事は魔物の定義については知らないと見て良いな」
「魔物の定義?人を躊躇なく襲うのが動物との違いって聞いたが違うのか?」
一説には人の持つ魔法に関連した何かに反応しているのだと聞いたことがあるが、定かではない。
別に僕は魔物学者でもないし、その手の本は特に見なかった。
どんな魔物が生息していて、どんな特徴があるのかは勉強した。そっちの方が生きて行く上で必要になるのだから、知識が偏っていても仕方がない。
そんな僕の意見をヴィリディスはあっさりと否定する。
「いや、違うな。魔物の定義は魔法を使える事だ」
「魔法?ゴブリンが魔法を使うってのか?」
「そうだ。厳密に言うと体内で循環する魔法、とでも言えば良いかな。我々で言えば無属性魔法の身体強化がそれにあたると考えてくれ。ゴブリンは筋力強化に重きを置いているな、確か」
なるほどと思った。
身体強化魔法を使い、大人顔負けの筋力を使って疾走する。
そうすればあれだけの速度で走れるって訳だ。
となると、一つ疑問に思う事がある。
「グレーウルフはどんな魔法を使うんだ?」
「グレーウルフ?……あぁ、グレーウルフも同じ身体強化魔法だな。ただし、速度を上げる方向に特化した」
「速度に特化?」
「そうだ。それがどうした?」
「いや、ちょっと気になっただけだ」
ゴブリンが身体強化魔法でも筋力特化に重きを置き、グレーウルフが速度重視。
ずっと昔から培ってきた研究の成果だという。
それを知るのは主に学者。冒険者などはそんな事は気にしない。何処に生息して、どんな特徴があって、どんな素材が取れるか。それさえわかれば事足りる。
たぶん、辺境伯領で魔物相手に戦っている父上であってもそこまで知らない筈だ。
もし、父上が知っていれば僕たち兄弟に話しているはず。そこに気を付けろとね。
そうなると、以前出会ったあの鈍いグレーウルフは何らかの影響で魔法が使えなかった可能性があるのか……。
ヴィリディスの話はさらに続く。
「ゴブリンでも上位種っているだろう。アレは進化と言うよりも魔法を覚えた個体、と考えるとしっくりくるだろう。まぁ、人以上の体格を獲得した個体もいるが、これは別種と言っても良いだろうね」
ゴブリンにも攻撃魔法を獲得した個体も存在する。
グレーウルフでもブレスを使える個体もいるらしい。このあたりには殆どいないが。
それらは冒険者ギルドの都合上で名前を変えているが、基本的にはゴブリンであり、グレーウルフである、のだそうだ。
「人間の討伐を逃れ、人間が扱っている魔法を見て覚えてしまう。元々身体強化魔法を使えるんだ、ゴブリンにとっては簡単だろう。よくある話だ。しかも人が持つ杖を奪って発動体として使えば立派なゴブリンマジシャンになる」
そうやって魔法を扱える個体が増える事が決定している訳ではないが、一説にはそのように現れる可能性も捨てきれないのだそうだ。
「なるほど、面白いことを教えてくれたな。感謝する」
「なに、昔ちょっとだけかじった知識だ。結局は冒険者、知識を披露する場所なんか無いがな」
それからもヴィリディスはぽつりぽつりと彼自身の事を話してきた。
彼自身は優秀で頭もよかった。成人の儀以降は進路として魔法関連の研究を行いたいと考えていたようだ。魔物定義を知ったのはそのついでだ。
だが、魔法研究に進むにはかなりの対価、つまりはお金が必要だった。父親は出してくれなったし話も聞いてくれなかったそうだが。
それに、魔法に興味があったとしても、書物を漁るだけで進路を確定できるほど世の中は甘くなかった。
そう語った彼はどこか寂しげな表情をしていた。
※この物語の魔物の定義は魔法を使うかどうかです。なので、人間も魔法を使うので魔物の一種と考えてください。
魔石が取れる?そんな事は無いのであしからず。上記の定義だと人間からも上質の魔石が
※魔石は錬金術で作られ、魔力の貯蔵やほんの少しだが魔力の増幅の魔法陣を組み込んだ水晶体との設定を考えています。たぶん、物語上出てこないかもしれませんが。
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