-25-

 僕がゴブリンに止めをさしてから暫くして、フラウとヴィリディスの二人が近づいてきた。時間が掛かったのはご丁寧にも置いた荷物を回収してきてくれたのだ。

 重量物を背負っていなかったのでこの程度の敵なら荷物を背負ったままでも問題なかったな。


「なかなか見事な腕前じゃないか」


 フラウは僕に荷物を渡しながらそう口にした。

 五年間、毎日、剣術に力を入れてきたんだ。このくらい出来なきゃ恥ずかしいよ。

 そう思いながら荷物を受け取る。


「魔法があんなだから、こっちで取り返すしかないんだ」


 土魔法の才能は無かったけど、剣ではそこそこの才能があったみたいで、何とかやっていけそうで良かったよ。

 まぁ、こんなだだっ広い草原だったら槍とか棒状武器ポールウェポンとかの方がいいのかもしれないけどね。まぁ、贅沢な悩みになっちゃうよ、これだとね。


「僕はこれしか特技が無いけど、二人ともすごいじゃないか!」


 そう。

 フラウは取り回しを考えた射程の短い短弓とは言え、二射ともゴブリンに命中させている。真っすぐ向かって来たとは言え、動く標的に当てるのは難しいはずなんだ。それを命中させているんだ。すごい才能だ。

 もしかしたら努力の結果かもしれないけどね。


 ヴィリディスも簡単に”火矢”を放っていたけど一発で致命傷を与えていた。体の表面を真っ黒に焦がして炭化直前までしていたからね。


 二人ともが僕に無い遠距離からの攻撃手段を持っているのは本当に心強い。


「話はこのくらいにして回収してしまう」


 ヴィリディスが話を強引に切り上げて、ゴブリン討伐の証明部位を切り落とそうとナイフを抜いた。


 魔物は討伐した証拠を冒険者ギルドに持ち込まなければならない。

 例えば、僕が以前持ち込んだグレーウルフは毛皮がコートなど防寒具の素材となるために内臓を除いた全身を持ち込み可となっている。内蔵だけは処理に手間がかかるので外に捨てて来て欲しいそうだ。無理ならそのままでも構わない、多少手数料を取られるが。

 討伐証明なら牙だけで済むが、上あごの二本が必要だ。


 そして、目の前のゴブリンはと言うと……。


「何時やっても気持ち悪いのは変わらないなぁ……」


 フラウも討伐証明の部位--左耳となる--を切り落としている。

 うっかりと右耳を切り落としてしまうと、カウントされないので注意が必要だ。


「同意。死んだ魔物から討伐部位だけを切り取るってのもどうなのかねぇ。ま、荷物が少なくて済むのはいいけどな」


 僕もフラウの意見を首肯する。ただ単に人に災いをもたらすと言うだけで討伐対象となり、死体は要らないから証明だけ持ってこいって、結構酷だよねぇ。

 死体処理も大変だ。埋めれば良いけど時間が掛かるし、燃やすのも時間が掛かる。

 どっちにしろ討伐証明しか提出できないゴブリンってのは厄介者としかなってないよな。


 耳を切り落としたゴブリンを一カ所に集めると携帯用のショベルを組み立てて穴を掘り始める。このショベルはグレーウルフを屠った時に血抜きなどの処理に落ちていた木の枝をショベル代わりにした苦い経験から購入したものだ。

 幸いにしてここは誰の土地でもないから穴を掘ってゴブリンを処分しても問題無い。そのままだといつまでも残ってるから穴に入れた後、燃やしてしまいたい所ではあるが……。


「そのままでは燃えにくいから仕方あるまい。人だって獣だって、死んだ直後は燃えないからな」


 土を掛けながらヴィリディスが僕のふとした疑問にぼそりと返してきた。


 紅蓮の炎が天をも焦がす。


 そんな魔法ならあっという間に骨まで灰になってしまいそうだけど、使うと動けなくなるほど消耗するらしいから現実的じゃない、って。


「でも、よくあんな細い腕や脚であんなに力が出せるもんなんだな」


 僕はぼそりと呟きを吐き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る