-19- フラウ1-2(2/2)

 ウェールの街に戻ったワタシたちは冒険者ギルドに報告した。

 ゴブリンの巣の存在と仲間の死を、ね。


 仲間の死については何も言われなかった。

 まぁ当然だろうね。

 冒険者は全てが自己責任の世界だから。

 判断力が劣っていれば、付きまとう死神の洗礼からは逃れられない。

 それがよく分かった。


 そして、受けた依頼は失敗案件となり、別の冒険者グループが受けて颯爽と解決していた。誰の死も無くね。

 彼我の実力を良く知り、己のできる最大の努力をして依頼に臨む、これが出来なければ冒険者は失格となる、そう思い知った出来事だった。




 あの時生き残ったヴィリディスと一緒に幾つか依頼を受けては達成報告をしている。

 失敗は無い。

 自分の実力以上の依頼を受けていないだけなのだが、生き残っているんだから誇っても良いだろう。


 暫くしたある時、冒険者ギルドの訓練所を訪れた。ほんとうにたまたま。何で寄ったのかわからない。

 建物の裏手にあるので前はよくここで訓練していたんだ。足元が悪く、何時も転んでた場所。

 そこに立ち寄ったら一人だけ訓練をしていた。

 とは言っても的に向かって魔法を撃っているだけ。


 撃っているだけだったけど、かなりの命中率を誇っていた。

 距離にして二十メートル。冒険者ギルドの受付で売っている的を使ってだ。

 あの的は比較的小さい。

 ワタシが魔法を撃つのは十メートルとかその位しか離れられない。それ以上離れると命中率が途端に堕ちるんだ。

 それをバシバシと的に当てていた、心地よい快音を出して。


「素晴らしい!すごく上手いじゃないか!」


 ワタシは思わず感嘆の声をあげた。本当に賞賛すべきだとね。

 腰に剣を下げているから本業はそっちだ、握りの状態から使い込んでいるのが分かる。


 そんなワタシに彼は声を返してきた。


「えっと、何か用?」


 そう言えば彼に用があった訳じゃない。

 ただ単純にふらっと立ち寄っただけ。

 魔が差したとか、そんな感じ。意味があったわけじゃない。ホントに気の迷いみたいなもの。

 だからと言って立ち去るのも悪いと思って思わず自己紹介をしてしまった。

 そのお返しで彼はコーネリアスと名乗った。


 コーネリアスね……。

 聞かない名前ね。

 でも、魔法の命中率とその剣をみれば意外とやるとは思うわ。

 だから咄嗟に口をついて言葉が出てきてしまったの。


「本題を忘れる所だった」


 と。


 本当は本題なんて無かったのよ。

 口を付いた出鱈目だったの。

 でも……。


「それでね、コーネリアスの練習を見てて、一緒に仕事でもどうかと思って誘ったのよ」


 本題じゃないけど、彼の練習風景を目の当たりにしてそう思ったの。

 いえ、違うわね。

 ワタシの本能が彼と一緒なら上手くやれる、そう呟いたの。


 顔は好みだった、それだけじゃないわ。

 家名を名乗らなかったから貴族では無いと思うけど、その貴族然とした雰囲気にワタシは魅了されたんだと思う。一目惚れってヤツかしら。こんな気持ち初めてかもね。


 何の考えも無しに誘ったのは迂闊だったかもしれない。少し警戒されたのよ。

 でもね、今回はダメでも、仲良くなってそのうち一緒に依頼を受けられば良いな、そう思ったのはホントよ。




※これで20話です。

 話数更新以上のフォロワーをいただきありがとうございます。

 題名の通りになるのはだいぶ先になりますが、それまでお付き合いをお願いいたします。

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