-15-

 森の中でグレーウルフと出会ってから約一か月。

 順調に依頼をこなし、そこそこ懐が温かくなった。生きて行く為の資金には程遠いが、当座の資金にはなるだろう。

 これからも依頼をこなさなければならないと、安い革鎧を購入した。新品だとまだ高くて手が出ないんだよ。貯めた資金の半分くらい支払ったが身体の要所要所を守ってくれる安心感を手に入れたのは心強い。


 それと同時に冒険者ランクが上がった。

 EランクからDランクへ、だ。


 実はDランクに上がるのは比較的簡単だ。

 真面目に仕事をして失敗があまりない。条件的にはこのくらい。

 うけとった報酬の金額も加味されるだろうがそこまでではない。

 ……らしい。

 ここからランク上げが大変みたいだ。

 ソロでの活動以外に、仲間とパーティーを組んでの依頼も受ける必要がありそうだからな。




 さぁ、明日から頑張るぞと気合を入れたのがいけなかったのか、次の日は体調を崩しベッドから起き上がるのもやっとだった。

 防具を手に入れた安心感、冒険者ランクが上がった達成感、そして、休まずに受け続けた依頼。それらが僕の疲れを表に出したのだ。


 疲れたと思ったら訓練もそこそこに早めにベッドにもぐりこんだり、十分に食事をしたりと気を付けたつもりだったんだが。

 それでもほとんど休みなく働いたのがダメだった。


 生きて行くための資金は必要だが、身体を壊しては本末転倒。

 幸いにして少し休んだところで資金がショートするなんてことは無かったから良かったけど。これからは適度に休みを取るようにして身体をいたわる事にしよう。

 依頼中は身体の調子が悪いからと言って路傍の石の様に丸まって寝るなんてできないからね。そうなったら僕なんか、一晩で狼たちの腹の中に納まってしまうだろうね。


 寝込んだのは幸いにして一日だけだった。

 ただ、余裕をもって次の日もゆっくりと過ごすことにした。

 半日ほどベッドでだらだらとして午後から冒険者ギルドに顔を出す。

 依頼を見るだけにして建物の裏手にある訓練場に向かう。


 訓練場と言っても誰かが指導してくれるなんて事は無い。

 頑丈な壁に囲まれた足場の悪い広場、そんな感じだ。

 自主訓練場とでも言っても良いだろう。


 訓練内容は様々。

 走り込んでもいいし、的に向かって弓や魔法の練習も大丈夫だ。

 ただ、的は実費。

 自分で何か作るとか、購入してこないといけない。


 嬉しいのは金属の鎧が幾つか立てられている事か。

 剣の打ち込みとか、槍の練習とか、そんな事が出来る。

 壊さないように木製の武器を使う事が条件。


 僕は病み上がりと言う事もあって身体を動かすことはせず、魔法の練習をすることにした。とは言っても疲れるまでするつもりはない。ちょっと今の実力を試すぐらいかな。

 病み上がりでもどれだけ威力が出るかとか、疲れるかとか。一種の実験かな?


 壁に購入した的をぶら下げる。

 一辺三十センチの四角い板。真ん中にばってんの印が付いているだけの丈夫な板である。

 これだけで準備はできた。


 僕が今使える魔法は土魔法と無属性魔法。

 身体に関係する無属性魔法は今日は使わず、土魔法だけを使う。

 だけど攻撃に使用できるのは石を作り出して打ち出す魔法だけ。


 所詮、石礫いしつぶてだ。そんなに威力は期待できない。

 ただ、簡単に打ち出せるから目くらましとか牽制とか、そんな風に使えるくらい。

 練習したから何も考えなくても大丈夫。失敗なんかしない。

 それに同時に五個生み出せる。

 とは言っても牽制以上にはならないんだけどね。


 的から二十メートルくらい離れて手を的に向ける。


「石礫!」


 直径三センチくらいの石が僕の掛け声と共に生み出され、的に向かって飛んで行く。

 文字通り飛んで行くんだ、真っすぐ。二十メートル以上離れるとそこから緩やかに地面に向かって落ちて行く。つまり、射程は二十メートルが限界って事。


「やっぱりこんなもんか……」


 病み上がりだからか、石礫は的に当たりはしたが予想通りにはいかなかった。

 もっと真ん中に当てるつもりだったが大きく逸れたと言っても良いだろう。

 端っこにかすっただけなのだから。




※:石礫を発音するならStone Smash、かなぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る