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2021/9/25 修正


 五年ぶりに訪れたウェールの街は前と同じように活気に満ち溢れていた。


 時間はすでに夕方。

 家路を急ぐ人々が多数いる他、これから仕事に向かう訳ありの人達に大別されるようだ。

 僕の様に馬車から降りて宿を探したり、血に染まった屈強な戦士が街を行くのは少数派であろう。


 人の流れに逆らわぬように宿を探す。

 案内があれば良かったが、それすらわからぬのだから地道に探すしかない。

 とは言え、時間も時間だ。適当なところで手を打つしかないだろう。


 街を歩いていれば人が吸い込まれる場所はだいたい分かった。

 そこを目指して行くと数件の宿が集まる場所に到着した。

 看板や入り口を見て、入る宿を決める。

 何処の宿も人がはいっているので大丈夫だろう。ただし、華美な服装をしている人だけだったり、みすぼらしい恰好ばっかりの場所は避ける。


 入り口に書かれた料金はかなりリーズナブルだ。

 渡されたお金だったら一年は軽く泊まれる計算だ。まぁ、食事とかなかったらの条件が付くけどね。


 とりあえず、食事つき一泊で頼んでみる事にする。


「こんばんは。一人なんだけど一泊できるかな?食事も付けてくれると有難いが」


 活気に満ち溢れた備え付けの酒場をちらりと見ながらブスッとしている男性、--恐らく店主だろう--に話しかける。


「食事はそこで食べて貰うでいいなら空いてるぜ」

「分かった、よろしく」


 一泊分の料金を支払うと部屋の鍵を受け取る。

 そして、部屋に入る前に酒場へと足を向けてカウンターに陣取り夕食を食べる。様々な会話が耳に飛び込んでくる、それを肴にゆっくりと。

 これは誰かに聞いた事を実践しているだけ。僕自身の知恵じゃない。


 その後、食事を食べ、部屋に戻ると、少し埃立つベッドに潜り込み一日を終えるのだった。




 翌日、朝食を摂り部屋を引き払うと目的地の冒険者ギルドへと向かう。

 目的はギルドに登録し、その日その日を生きる日銭を稼ぐためだ。


 男爵家を追放された僕を雇う奇特な人はいないだろう。どんなに言い訳をして追放という言葉が僕に付きまとう。それならば己の力でのし上がれる冒険者しか出来る事は無い。


 冒険者は危険な職業、上位に位置すると言っても良い。仕事は多岐にわたるが、主な仕事の一つに魔物の討伐がある。

 貴族に使える騎士なども同じように魔物を討伐するが、バックアップ体制に違いがある。


 例えば装備。

 騎士たちがしっかりとした防具を支給されているだろう。

 例えば援護。

 後方から飛び道具で援護され、魔法で弱らせるかもしれない。


 その後、止めをさす、なんてしているかもしれない。

 見たことが無いからわからないけど、それに近いだろう。

 

 だけど、冒険者は自己責任を旨とする。

 一人で行動するのなら、バックアップは無いし、重い装備を付けられないだろう。

 それに一人で多数の魔物を相手にするかもしれない。


 そんな危険な職業だからこそ、地位や肩書よりも腕っぷしが重要になり、僕のような追放者でもやっていけるのだ。

 当然、犯罪歴が無いって前提だけどね。


 そんな事を考えているとその建物が見えてきた。

 三階建て(?)で領主の館より大きいかも?

 街の人口を考えるとこのくらいがいいのかな?

 辺境伯領にも冒険者ギルドの建物はあったけど、ここまで大きくなかったな。

 せいぜい二階建てだったな。


 でも、建物の造りや雰囲気は似てるね。

 設計が同じなのかな?


 僕はちょっとワクワクを胸に抱えながら冒険者ギルドへ足を踏み入れた。

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