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 今日は成人の儀が行われる。

 辺境伯様からお言葉を頂く有難い日だ。

 そして、今日から僕たちは成人、つまりは一人の人間として扱われる。

 成人の儀までは何処か子供だから仕方ないとか、半人前とか見られていたが、今日からは違うと肝に銘じておかなければならない。


 さらに僕は、男爵家から追放される日でもある。

 父親に渡してあったステータスカードが手元に戻ってきた事でそれが実感。


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 名前:コーネリアス■■■■■■■

 教会:ウェール教会

 スキル:

     

     

      土(1)

 その他スキル:鑑定(▲1)

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 家名が黒く塗りつぶされている為に屈辱を感じるけど、今更あの日に戻ってやり直しなんてできない。甘んじて受けるしかない。

 だから今日からはフォースター男爵家三男ではなく、ただのコーネリアスとして生きて行くのだ。




 成人の儀は滞りなく終わった。

 何処かの貴族の倅が二言三言煽って来たけど、関係ないと無視した。

 今更怒りに任せて剣を振るう訳にもいかないし、やることは沢山ある。

 親が敷いた道に沿って生きるボンボンと違って暇は無いんだよ。


 何かあったら戻ってきていいぞとは言われてるけど、父上にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。だから、この地を離れて一人で生きていくんだ。


 そして、隣街、祝福の儀を受けたウェール目指して馬車に乗り込もうとした時だった。


「兄上!こんなところで何を?」


 僕の旅立ちを見送ろうとわざわざ足を運んできてくれたのだろうか?

 一番上の兄が停車場で待っていた。


「久しぶりだな、元気そうで何よりだ」

「兄上こそ、活躍は聞いています」


 父上程ではないが兄も達人並みの剣術を使う。魔物相手に八面六臂の大活躍をして辺境伯から直接言葉を貰ったと聞いた。

 それ程の活躍を見せた兄がこんな所にポツンといるのも不思議な光景だった。


「男爵家を追放になるからと言って、お前を弟に持った事実は消せない。何かあったら頼ってこい」

「それは父上にも言われています」

「そうだったな……」


 兄は頭を掻いてみせた。僕に向けて次の言葉を選んでいるようだった。適切な言葉が出て来ないのかもしれない。そんな気がした。


「……あまり口は上手くないからな。餞別だ」


 兄が投げよこしてきたのは、一振りの剣。

 ほんの少し抜いてみただけで業物と分かった。


「こんな高価な剣、貰う訳には……」

「いいから持っていけ」

「でも……」

「でもって言うな。お前が追放と知った時何もできなかった、その詫びだと思え」

「それは自分のせい……」


 高価な剣を貰う理由が無い。

 兄が口にした様に、僕が追放を決められた時に庇ってやれなかった。その詫びだというのだ。

 あの追放は知識を持たぬ自分がもたらした災いだった。だから詫びと言われても受け取れない。そう思った。

 そう口から言葉が出るはずだったけど、兄の表情を見た途端その言葉を飲み込むしかなかった。

 可愛がっていた弟が追放と言うありえない形で失う事になった、そんな表情だったから。


「分かったよ。有難く頂いておく」

「そうしろ。お前はそのうち何かを仕出かす気がする。その時にでも役に立ってくれれば良い」


 その剣を今差している剣と共に吊るすと兄は嬉しそうに微笑んだ。

 まぁ、ボロボロの剣と業物の剣を並べて吊るすのもどうかと思うけどね。


「では、行ってきます」

「行って来い。身体にだけは気を付けろよ」


 僕が馬車に乗る前に兄は手を振っただけでその場から去って行く。

 その背中は哀愁が漂っているように見えたけど、気のせいだと思いたい。

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