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「なんてことを仕出かしたのだ!」


 宿に連れ戻された僕を待っていたのは、父親からの怒声だった。

 怒りに満ちたと言うよりも、呆れてものが言えない、そんな表情をしてる。

 何でこんなに怒られなくちゃいけないのか、さっぱりわからなかった。


「教会が何をしているのか知っているのか?」


 父親のそんな問いかけに僕はキョトンとしながら答える。


「祝福の儀とか、神様からの言葉を述べたりするだけじゃないの?」


 僕は思っていることを率直に口に出した。

 回りから言われているのは信仰の対象たる神様からのお告げを聞き、それを言葉にして告げる。その他にもこまごまとした仕事はあるだろうが、それで間違いないはずだ。

 だが、父上は溜息を吐きながら諭すように説明を始めた。


「いいか、それは教会の仕事だというのは当然だが、仕事以外に何をしているのかと聞きたかったのだ」

「それならそうと……」

「聡いお前なら分かるだろうと思ったが残念だったよ」


 ”何をしているか”と問われて教会の仕事が何なのかと答えたのは僕だ。

 だけど、父上はその次を期待していたらしい。

 でも、僕にはそれが何なのか今は分かっていなかった。


「教会はたった一つの組織なのにこの大陸全土にあるのは分かっているのか?」

「そう言えばそうですね」


 僕の住むこの王国が一つの国としてあるように、大陸にはいくつもの国に分かれている。魔物の被害を押さえながらも国と国が争いを続けている。であるにも拘らず、教会は国をまたいだ組織で全土に存在する。


 父上のいう通りだ。


 それと同じような組織がいくつもあるが、統一された組織となると教会しかないな。


「大きな声では言えないが、教会の権力は王をも凌駕するのだ。この意味わかるか?」


 一国を治める国王よりも強大な権力を持つ。つまりは王に命令できる?

 王から辺境伯に命令が伝わり、男爵なんか吹けば飛ぶような存在しかない、そう言いたいのだろう。


「そこまで理解したなら話が早い」

「では教会の権力に屈しろと?」

「言い換えればそういう事になる。そしてだ……」

「そして?」


 父親はそこで言葉話を一度切った。

 確かに強大な権力に歯向かったとなれば、行く末は破滅しか残されていない。

 何かを渡して司教の怒りを静めていたが、あれだけで済むのか心配したのだろう。

 そして、僕は思いがけない言葉を聞くことになった。


「お前を我が一族から追放することとする」

「えっ!」


 10年間、男爵家三男として生きてきた。

 これからもその肩書は永遠に続くと思っていた。

 それがここで失われようとしていた。

 思わぬ父親の宣言に絶句するしか無かった。


「ただ、我が国は15歳を成人と定めている。成人となった暁にお前をこの家から追放する。それまでは存分に勉強に、剣に、力を入れ生き抜く気概を見せてみろ」


 教会に立て付いた子供がいると分かった時点で他から、特に辺境伯から何を言われるか分からない、だから心を鬼にして追放すると言ったのだろう。

 ただ、子供が嫌いだったら今すぐにでも家を出て行けと言われたかもしれない。そう言わない事が出来る最後の抵抗なのだろう。


 父親の泣きそうな表情が痛いほど伝わってきた。

 家を守る、辺境伯を守る、そして、王国を守る。一つの綻びから致命傷が生み出されるかもしれない、それを回避するために、僕を切り捨てるのだろう。


「分かりました、父上。追放されるその日まで生きる手段を徹底的に身に着けます」

「済まぬな、息子よ」


 そんな僕を抱きしめる父上はなんと非力な事か。

 そうして、祝福の儀の一日を終えるのだった。

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