第6話 鳥葬

 わたしが朝早く起こされるのは、鳥の鳴き声ではなく子どもたちのご飯を求める声。



「ママはやくーおなかすいた!」

「つかれたーごはんたべたくないーねむいーおなかすいたー」


 一行で矛盾できる、それが子ども。昨日の夜さんざん泣いていたのに朝になればなぜかリセットされていて元気が充電されている。

 一方わたしは疲労感が抜けた気がしない。どんどんどんどん蓄積する一方で、騙し騙しなんとかやっている。

 子どもが産まれてから満足に眠れた記憶がない。初めての出産後、いやに気が張って、3時間置きの授乳に備えるために寝ようとしても目が冴えて、まったく眠れなかった。そういう日が何日も続くと簡単に精神が壊れるもので、危険な株取引やら怪しい健康療法に手を出しかけた。今はあの頃よりも眠れてはいるけど、寝かしつけで倒れるように眠り、途中で起こされる時の悲しみや怒りはどこにもやり場がなく、自分で何とかするしかない。


 とか考えている間に子どもの着替え、おむつ替え、朝食準備、保育園準備を流れるようにやっている。別のことを考えながらこれらの作業をやっている。



 自分というものが少しずつ削れていっている想像をよくする。仕事に行く間と保育園に迎えにいく間だけが自分のための時間で、そこで深く深く呼吸することでなんとか生きている気がする。

 それでも充分ではないから、物心ついてから学生時代、社会人までの自由だった自分を、どんどんこの子達に食べさせて、そしてその分子どもは大きくなる。小鳥たちに身を啄ませて、そのうちきっと痛みも忘れて、わたしはどんどん変わっていく。


「さ、保育園行こうね」


 子どもたちはママー行きたくないーと抱きついてくる。こんなことを考えているわたしにも無心で抱きついてくる。啄まれた部分は多分こういうもので埋まっていく。

 いい朝だ。洗濯物がよく乾きそうだ。今日は金曜日だから、タオルパッドやら帽子やらまた洗い物が増える。

 子どもたちを自転車に乗せる。今日は風が吹いている。青い空の下、学生時代に好きだった曲を歌ってみた。子どもたちの声が一緒に響いた。


(第六話 了)

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