第5話 神様の夜

 書けない。どうしても書けない。

 脳みそを雑巾のようにカラカラに絞っても続きの文章がこぼれ出ることはなかった。どうすればいいんだろう。起こしたい事象はあるのに、それを繋ぐための文章が見つからない。

 息を止める。

 その間文章を書けるまで息をしないよう、自分に暗示をかけて一気に文字を打つ。文字を打ったらその字数分呼吸をする権利が与えられる。死ぬ気で文字を打つ。呼吸する。文字を打つ。呼吸する。文字を打つ。文字を打つ。

 そうすると息をするためだけに打ったクソ文章が出来上がるので、それに赤をつける。これは何が書きたいんだ?指示語はどこいった?それそれそれそれうるっせぇぇぇ!これそれあれどれ禁止じゃボケもっとここに文章足せ。空白で誤魔化すな!


 だいたい二十分くらいで四百字がやっと埋まる。どうしようどうしようどうしよう。まだ全然シナリオ完成には遠い。

 そうすると今度はダイスを探し始める。探すのに十分。ダイスの目にそれっぽい展開を当てはめるのに五分。実際ダイスを振ってから、何でこんなクソ展開入れた?これどうやってシナリオに入れる?考えたやつの馬鹿野郎出てこいと頭を捻らせること三十分。

 時間だけは進む。どんどん過ぎていく。

 文字を打つ。出だしが決まらない。クソかっこいい台詞を入れたい。ヒロインと主人公をイチャイチャさせたいけどあからさまにくっつく感じは出さずにちょっとわかってる感じで書きたい。ここは笑ってほしい。改行入れよう。ここは泣いてほしい。少しムカついてほしい。たくさんの祈りを込める。面白くなるよう、みんなが笑ってくれるよう、泣いてくれるよう、絶望してくれるよう、それも含めて楽しくなるように、とにかく文字を打つ。がんばれ、みんながんばれ。



 そうやって今日も台本は書き上がる。夜の23時57分。


「よかった……今日も間に合った……」


 そう言って神様は明日0時公開の予約を入れて少し寝る。

 寝ている間にたくさん、神様の目の届かない間のたくさんの失望や希望や気まぐれや偶然が起きて、神様は目覚めた時、想定外の事態に舌打ちをしながら、それらをどう今後のシナリオに組み込むか、今日はどのくらい眠れるか考える。

 そうしてこの世界は廻っている。



(第五話 了)

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