第12話 十一日目〜

スマホのアラームを止めた。

樹里を見て微笑む。


二人とも起き上がるとお湯を沸かし、パンを焼いた。


夏季休暇として十六連休を取り始めて十一日目の火曜日。

今日から一泊二日で東京ディズニーリゾートへ行く。


お互いにジーンズにシャツにストローハット。

着替えと最低限の物を背負って家を出た。



舞浜駅を降りる人は大勢いて、入口に並ぶ列もそれなりの長さになっていた。

私達もレジャーシートを敷いてその仲間に加わると腰をおろして体を休めた。



アナウンスが流れ始めて入場すると、ミッキーのキャラクターグリーティングの列に並んだ。

この順番なら大丈夫そうだ。

そして三人で記念撮影をしてもらった。


その並んでいる間には、アプリを使ってプーさんのファストパスを取得しておいた。


「ミッキーとの写真、よく撮れてますね」

「うん、そうだよね」


「あっ、ちょっとここ寄らせて」


私はスーベニアショップでクランチチョコを数缶買うとリュックと一緒にロッカーへしまった。


「身軽になりましたね」

「うん、さあ、何したい?」


「ビッグサンダーかな」

「いいよ。並ぼう」


二人はお昼ごはんをチュロスで済ませて、たくさん歩き回った。

途中で咲はバテかけたが、樹里の笑顔に背中を押されて乗り切った。


午後になりパレードを見た。樹里が一生懸命に手を降る。時々キャラクターも振り返してくれる。

そんな楽しそうな樹里の横顔を何枚も撮った。


「少しくたびれましたね」

「どこかへ座ろうか」


そう言ってショー劇場に入った。それで少し復活して夕暮れまで居ると、少しこども連れが減ってきた。


「何か食べる?」

「そうですね」


並んでまで食べる気はしないので、パークの奥にあるバーガーショップまで行き、涼しい二階で食べた。


「後は夜のパレードと花火かな」


レジャーシートを小さく敷いて、パレードを二人で待った。

園内の照明が落ちて、パレードの音楽が流れ始める。

きらびやかなフロートがどんどん流れてくる。

樹里が一台一台を見上げて喜んでいる。

そんな樹里を見て私も嬉しかった。


パレードを見終えて、入口のワールドバザールまで戻る。窓からお土産を覗いていると花火が上がり出した。



「楽しかったなー」

「そうだね」


リゾートラインを降りると、ホテルミラコスタへチェックインを済ませた。


部屋は海が見えるハーバービューにした。


「ここのホテル、一階でシーとつながってるんだ。窓から見えているのはシーの中だよ」

「へー」


「それで特典として十五分早く入れるの、だからソアリンのファストパスを取ろうね」


「それから夕食はルームサービスにしよう」


樹里はスリッパに履き替えるとベッドに転がった。楽しくてたくさん動き回ったが、やはり疲れていたようだ。


軽い食事を済ませて、バスタブにお湯を貯めると二人で浸かった。


樹里は背中を向けると咲に寄りかかった。

もしお姉ちゃんがいたら、こんな感じかな……



明けて十二日目、水曜日になった。

予定どおりソアリンのパスを取ってから、シーの街へ出る。


「今日はゆっくり廻りますね」

「アトラクションはいいの?」

「はい、乗れれば乗る程度で、あとは散歩します」

「それで構わないよ」



「咲さん、ディズニーの知識はどこで身につけたんですか?」

「中高大学と、友達と遊びに来たからね」


「私、咲さんと会わなかったら、ずっと来なかったと思います」

「遠いよね」

「そうですね……」


「ちょっと覗こっか」

「は、はい」


「これがダッフィーですか。たくさんいますね」

「気に入った子がいる?」


「うーん、どうかな」

「連れて帰りたい子がいたら教えてね」


結局、ぬいぐるみは買わずにソアリンで空中散歩を楽しんだら、夕方前にテーマパークをはなれた。


疲れた樹里は電車の椅子でぐったりだった。


その夜、ふたたび一緒に入浴すると、咲は樹里の体をマッサージしてあげた。


耳の裏側から首筋に降ろして肩をさすり、肩甲骨の裏側をほぐして背骨に沿うように腰まで揉んだ。


「気持ちいいです」

「滞っている血流を流すイメージなんだよね」


「続きをリビングでしてもらってもいいですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます」


お風呂から上がり、髪を乾かすと樹里の腰をからふくらはぎ、そして足裏までをマッサージした。


「はい、お粗末様でした」

「とんでもない。凄く気持ち良かったです。ありがとうございました」


お茶を淹れて、冷めるのを待ちながら、今日撮った写真を共有して二日間を振り返った。


「樹里がいてくれたおかげで、今年の休みは凄く楽しかったよ」

「私もです。刺激的でしたけど、楽しかったです」


「アルバムの中は可愛い樹里の写真で一杯だよ」

「横顔の写真とか、親バカかストーカーって感じですよね」


「それが自然体な樹里の笑顔なんだよ」

「照れくさいけど、ありがとうございます」


「実家用にお土産買ったよ。写真も何枚かプリントして渡そうよ」

「そうですね……」


「何だか長い休暇が終わった気分です」

「・・・・・」



「明日は何したい?」

「休暇も残り四日ですね」


「私……、明後日に帰ります」


「そっか」


「ありがとうございました。まさに夢のような時間でした」


「へへっ、樹里のことを正視出来ないや。歯を磨いて寝よっか」


「はい」



ベッドには樹里も入ってもらい、その胸元にすがりついて眠った。樹里は私が眠るまで頭を撫で続けてくれた。



十三日目、木曜日。


朝食を済ませると洗濯機を回した。

樹里と過ごす最終日なのに、明るい側面を探すことが出来ずにいた。

樹里も無理はせずに自然体で過ごしている感じた。


リビングで一緒に過ごしながらも別々なことに意識が向いている。



「そうだ……、チケット取らないとね」

「はい」

「新幹線?」

「はい」

「お昼前頃の出発かな」


予約サイトの画面を開き、列車を探す。


二人掛けの窓側を選び座席を確定させた。あとは乗車者の情報を入力するだけだ。


画面に映る文字がぼやけてきた。あと一息。がんばれ!



(つづく)

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