第5話 五日目_雨と告白

休暇五日目、水曜日。


目を覚ますと外が暗かった。予報どおり雨のようだ。

隣に樹里がいることに安心し、また眠る。


次に目が覚めると、樹里は椅子に座ってテレビを観ていた。


「おはよう」

「おはようございます」


「もう、モーニングの時間は終わっちゃいましたよ」

「そうだね」


樹里はベッドに腰掛けた私に近付くとキスをしてくれた。


「おはようのキスです♪」


私は顔を赤らめながら立ち上がると樹里を抱き締めた。


「ご飯どうしよっか?」

「何でも構いませんよ」


「お寿司が食べたい!」

「ランチから?」


「だめ?」

「咲さんは贅沢ですね」


私達は支度をしてスマホで調べると、歩いてホテルを後にした。


ガラッガラッ


暖簾をくぐり、戸を開くとカウンターに座った。

そして二人分をおまかせで頼んだ。やはり白身魚が美味しいらしい。

鯛にハマチ、サバにアジ、うにとアワビ、車海老など何を食べても美味しい。

追加で茶碗蒸しと冷酒をもらうと、樹里には好きな物を食べるように言った。


「まぐろと子持ち昆布と玉子とイクラを食べてもいいですか?」

「いいよ、私もまぐろと数の子食べたい」


お酒を飲みながら、ゆっくり食べていると、お昼時になったようでお客さんが増えてきた。

私は最後にグイッと飲み干すと樹里と表に出た。


「ねぇ樹里、明日は早起きして、四万十川まで行こうと思うんだけど、一緒に行ってくれる?」

「いいですよ。朝は何時に出ますか?」

「五時かな。高知県の四万十市まで行くんだ」

「いいですよ」


「あの、着替えを取りに戻ってもいいですか?」

「いいよ。私もついて行っていい?」


樹里は私の顔を一瞥した後、いいですよと許可をくれた。



「そうだ、樹里。いくら払えばいい?、銀行寄るよ」

「日給一万円として五万円かな」


「そんな大幅割引でいいの?」

「はい、一緒にいる時は全然お金を使わないので」


二人で銀行へ入り、私の渡したお金を樹里の口座へ入れると、明日分のお金を持って樹里の部屋に向かった。


樹里の部屋はお世辞にもきれいとは言えない古いアパートの二階だった。


錆びた階段を上がり一番奥まで行くと洗濯機と扉があった。


扉を開けると台所の一間があり、その奥に部屋が一つあった。

洗濯物がたくさん吊るして干してある。


「咲さん、すみません。座れる場所を見つけて待っていてください」


「うん、樹里、着替えは二日分だよ」

「はーい」


樹里が片付けと支度するのを見ながら、私は部屋も観察し日頃の暮らしぶりを知ろうとした。


片付き具合は、私の部屋よりよく出来ていて、きれいになっている。たぶん元から綺麗好きだったんだろう……

楽しそうに支度をしている樹里を見たら不意に涙がこぼれてきた。

慌てて手で拭って誤魔化した。

でも何で樹里がここで一人で頑張っているんだろうと思うと、やはり涙があふれて止まらない。

自然と鼻をすすってしまった。


ズズッ……


「咲さん!、どうしたんですか?」


「ちょっと……、お酒を飲みすぎたかな……」



「樹里、いつから一人暮らし?」

「一年と少しかな」


「何で飛び出したの?」

「お父さんと喧嘩して」


「どんな」

「高校卒業してから働かないで家に居たら、もう出てけ、みたいなやつ」


「ここのお金は?」

「お母さんからもらった」


「働いたの?」

「うん、最初はね。でも閉店しちゃった」


「あの仕事で暮らしていけたの?」

「お母さんの仕送りで何とかしてる」


「これからどうするの?」

「ほかの街に行きたいな」


「あてはあるの?」

「大阪とか広島とか大きい街にいけば、何かあるでしょ」


「一度、実家に戻ったらどう?」


「なんで……、いいでしょ、別に。咲には関係ないじゃん」


「だって樹里はいい娘で、そんな娘が出会い系で働いているなんて嫌だよ」


「馬鹿じゃないの!、咲だってそれで出会って一緒にいるんじゃん」


「でも今はそんなつもりでいるんじゃないよ」


「お金払ってるんだから、してる事は一緒だよね!」


「でも……」


咲は怒っていた。私は分かってもらえなくて悲しかった。

膝を抱えると顔を伏せて泣いた。


私が泣き止むまで樹里は知らんぷりだった。


それでも一緒にホテルへ行き部屋へ入ってくれた。


「ねぇ樹里、大浴場行こうよ」

「分かりました、行きましょう」


エレベーターで最上階に行くと服を脱いで、湯船に浸かった。


まだ午後の三時。外も明るいので夜景が見えるわけではないが、大きな窓で広々としていて気持ちがいい。

もちろんお風呂には二人だけ。少し色付いた樹里はいつも以上にかわいい。


「ねぇ、樹里。私は樹里が好き……。可愛くて、素直で、しっかりしていて、一緒にいると楽しいし、心が安らぐの……。これからもずっと一緒にいたい……。これが今の私の気持ちだよ」


私は窓際へ行くと外を眺めた。

もう告白は出来た。今回の恋は私としては上出来だ。今まで何人かに片想いをして、気持ちを伝えることなく終わってきた。

告白するとこんなに晴れやかな気持ちになって、ドキドキするんだな。


樹里はノンケ。恋愛対象に女性はいない。それに開放的な東京と違ってこの辺じゃレズビアンなんて認めたくないし、認めてもらえないだろう。


私は外を見ながら自分がおかしくなって笑ってしまった。


「さぁ、体を洗おうかな」


振り返ると樹里を誘った。


(つづく)

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