第2話 ならず者のジョージは楽をして稼ごうと……(笑)



 そんなある日、とてつもなく大柄なミツバチが、どこかから飛んで来ました。

「おいらは旅から旅への旅ミツバチ。ひとつところに落ち着けねえ性分でねえ」


 まるでミツバチ界のダイダラボッチみたいに巨大で横じま模様がはちきれそうな、ジョージと名乗るミツバチは、そう自己紹介し、仲間に入れてほしいと言いました。


「損はさせねえよ。ごらんのとおり、力仕事にゃ自信があるし、自慢じゃねえが頭のきれ具合だって相当さ。その辺のどんくせいやつらの、何倍もはたらいてみせるぜ」


 なんでも受け入れるフックンですが、今回はなんとなく気が進みませんでした。

 でも、仲間のハチたちは「おもしろいやつじゃないか」と興味を示しています。


      *


 外目には気楽そうに見えて、じつはミツバチの世界にはきびしい定めがあります。

 女王蜂の前で集めて来た蜜の量を競わなければならないのですが、正直なところ、小さい花も余さずまわっていたフックンの仲間たちは少し遅れをとっていたのです。


 ミツバチたちが集めて来た花蜜は女王さまの部屋の奥にある大きな壺に蓄えられ、じっくりと熟成され、上質のハチミツとして人間の世界に提供されます。ハチミツは病気や、からだの弱い人に穏やかな効果があるので、とても珍重されているのです。


 リーダー格のフックンは迷いをふっきりました。

「よし、それじゃあ一緒にはたらいてもらおうか」

 百人力を得た仲間たちはどっと歓声をあげました。

 

      ****

 

 ところが、ある日のこと。

 フックンはおかしなことに気がつきました。

 あんなに一所懸命はたらいていた仲間の様子が、目に見えて変わって来たのです。


 からだの具合がわるいのだろうか、なにか困ったことがあるのだろうかと心配してフックンが近づくと、まるで申し合わせたように、すっと遠くへ行ってしまいます。


 なんだかフックンを避けているみたい……。(´;ω;`)ウゥゥ


「ぼく、きっといけないことをしたんだろうね。どうか率直におしえてくれないか」

 心から訊いてみましたが、みんなフックンを遠巻きにして黙っているばかりです。


 仲間の目つきが尖っていて、以前のように温かくないような気がしてなりません。

 フックンは泣き出しそうになりましたが、かろうじて無理に笑顔をつくりました。


「言いたくなければ言わなくていいよ。そのうちに自分で気づくかもしれないしね。それより早く蜜集めをしようよ。ぐずぐずしていたら日が暮れちまうからね(笑)」


 でも、だれも笑わなかったので、フックンはさらに惨めな気持ちになりました。


      *

 

 とそのとき、黙っていたジョージが口を開きました。📣🎤


「なあ、みんな。ばかばかしくてやってらんねえっつうんだよなあ。おれらはよう、こいつの手下じゃねえんだからよう。勝手にボスぶってもらっちゃ困るんだよなあ」


 すると、ほかのミツバチたちも、いっせいにうなずいているではありませんか。


「これまで我慢してきたけど、そろそろ終わりとしようや。へん、笑わせやがるぜ、小さな目立たない花も、みんなお友だち? きれいごとを言うんじゃねえっつうの」


 図に乗ったジョージは、さらに睨みをきかせて言い募ります。(`・ω・´)


「その、ご大層なヒューマニズムとやらのおかげで、こちとらどれだけ無駄ばたらきさせられたと思っていやがる。効率よくでっけえ花の蜜だけ集めてなにがわるい?」


 あまりのことに、フックンは蜜籠を取り落としそうになりました。

 からだから血の気が引いて、手足の先が氷のようになっています。


 やっとのことで気を取り直したフックンは、のどにからんだ声で言いました。👀

「ぼくは……ぼくはミツバチの役目を忠実に果たしたかっただけなんだけど、それがみんなに余計な苦労を押しつけることになったのだとしたら、本当にごめんなさい」


 ふるえ声をふり絞りましたが、だれもフックンの話を真剣に聞いてくれません。

 わざとそっぽを向いたり、ひそひそ囁いたり、早くも飛び立とうとしたり……。


「どうか、みんな、わかってください。ぼくたちがミツバチとして生まれたことにはなにか大きな意味があると思うんだ。せっかく授かった命を精いっぱい輝かせたい。同じようにお花さんたちの命も大切にしたい。ぼくはそれだけを願っているんだよ」


 フックンのけんめいな言葉が終わらないうちに、仲間の、いえ、かつて仲間だったミツバチたちは、こうしている間も惜しいとばかりに相次いで飛び立って行きます。


 先頭で号令をかけているのは、もちろん、あのダイダラボッチ男のジョージです。


「融通のきかねえ石頭なんぞに本気でつきあっていると、ろくなことにならねえぜ。いいかい、みんな、これからはもっと楽して稼ごうぜ。ちっぽけな花は相手にせず、でっかくて派手で、一度に大量の蜜をゲットできる花だけを狙うんだ。いいな」💪


      *

 

 あとに残されたのは、しょんぼり羽を垂れたフックンと2頭の仲間だけでした。💦


「わたしたちはどこまでもフックンの味方ですよ。ジョージは間違っています。この世界は派手な花だけで成り立っているわけではありません。たくさんの小さな花たちに支えられてこその世界です。自然の掟にそむいてまで楽をしようとは思いません」


「損得勘定ばかり考えていたら、きっといつか、どこかに破綻が生じますよ。さあ、フックン、元気を出して! わたしたちはわたしたちの蜜集めに出かけましょうよ」


 2頭は言葉を尽くしてフックンを励ましてくれました。( `ー´)ノ

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