人知らない森の中で3
現在は昼を少し過ぎたあたり。日の光が木々の隙間を縫ってよく届き、最も暖かく、明るくなる時間帯。
「よし、そろそろいいだろう」
そこらへんに転がっている石をイス代わりにして腰を掛けているナルガが真剣な面持ちで頷いた。
視線の先には、火の粉を儚く散らして、日の光にも負けないほど煌々と赤く燃える小さな焚火があった。焚火の周りの地面には、粗雑な木の串に刺されて焼かれている魚の姿があった。数は三匹と少ないが、そのどれもが程よい焦げ目がついており、旨味を含んだ透明な脂が地面へと滴り落ちていた。
「美味そうだな」
手を伸ばして慎重に木串を掴み、口元まで運ぶ。焼き立てなので脂がぷつぷつと音を立てて弾けており、とてもおいしそうだった。
「あっふっ」
ナルガは大きく口を開けて焼き魚にかぶりついた。焼き立てなので当然のように身は熱く、はふはふと口の中に空気を送り込んで冷ましてからいただく。
「おお、美味いなコレ」
小ぶりな割に身はしっかりとしており、中々に食べ応えがある。味は淡泊だが、噛むと溢れてくる旨味を含んだ脂とよく合い、美味い。
ナルガはあっという間に食べ終わると、さっと手を伸ばして二匹目の焼き魚を取る。無言で口内に運ぶと、味わうようにゆっくりと咀嚼して平らげる。
「あー、美味かったなぁ……。さてと、次は」
満足そうな表情を浮かべながら、最後に残しておいたとっておきの焼き魚を手に取る。その焼き魚はナルガの食欲をそそらせたあの黄金魚である。
「いただきまーす」
ナルガは期待を込めて、焼き黄金魚の腹のあたりに勢いよくかぶりついた。
「!!」
一口噛んだ瞬間に口の中に広がった味に、ナルガは大きく目を見開いた。
魚とは思えない肉厚な身と溢れ出してくる濃厚で全くクセのない脂が絶妙に絡み合い、まるで小さな熟成肉を食べているような気分になった。
「うっま」
小さな声で感想を呟くと、言葉を忘れるほど夢中になって立て続けに黄金魚にかぶりついた。
「あれ?もうないや」
気付けば黄金魚は身の欠片一つ残さず骨だけになっていった。
口の端についた脂を袖で拭いながら、残った魚の骨をまとめて焚火の中に放り込む。放り込んですぐに、パチパチッ、と何かが弾ける音がしたかと思うと、一瞬で燃え上がった。
ナルガはその骨が燃えゆくさまを何も考えず、ただぼんやりと眺める。
「そろそろ消すか」
骨が燃え尽きて灰になった頃、ナルガは焚火の消火用の水を汲みに行くため立ち上がった。
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