人知らない森の中で2


 ―――ぶらぶらと、木漏れ日の差し込む森の中をナルガは彷徨う。その足取りは軽く、ただ散歩しているようにも見える。

「どこにあるんだ、一体?」

 ふと足を止めて、ゆっくりとした動作で辺りを見渡す。が、見渡す限り木しかなく、特にこれといって目がつくものはない。

「ここら辺にもないかぁ……」

 ナルガは残念そうにため息をついた。

 この森で目覚めてから既に三日が経っていた。この三日間、魔物との戦闘をこなしながら出口を探して彷徨っていた。」

 自分の中では隅々まで探索をしているつもりなのだが、出口は一向に見つからない。この森が広くて見つからないのか、はたまた出口がないのか。

(……このことを考えるのをやめよう)

 これ以上このことについて考えると、負の悪循環に陥ってしまいそうだったのでナルガは頭を振り、迷いを断ち切る。

「まぁ、あるだろ……出口」

 呑気にそう呟くと、また出口を探して歩き始めた。

 今は日が昇っており、木々の間から木漏れ日が射して辺りは明るいが、夜になると当然日が落ちるため、暗くなる。日が昇っている時とは違い、夜の光は弱いため木の枝や葉などに遮られるので光が届きにくく、余計に暗い。この森は石が転がっていたり、木の根っこが土からむきだしており、非常に足元が悪い。また、夜になると魔物達の活動が活発になり、凶暴な魔物が増えるので尚更危険である。

 荒れた足元と辺りの気配に注意しながら出口を探して周囲の探索を続ける。

「そういや、なんで俺はこんな森の中にいるんだ?」

 そもそもなんで出口が見つからず、人が見当たらない森に来たのか?と不思議に思い、ぽつりと呟いたナルガは、この森に来た時……目覚めた時の事を思い起こした。

 この森で目覚めた時は、開けた森の中で大の字になって芝生の上で寝転んでいた。所持品は黒い鞘に納まった一振りの刀に小型のナイフ、黒色のシャツにズボン、シャツの上から羽織った白のロングコートに茶色のブーツのみ。どしてこんなところで寝転んでいるのかと直前の記憶を思い出そうとしても、頭の中が靄がかかったように重く、まともなことを思い出せなかった。かろうじて思い出せたのは自分の名前だけであった。

(でもな……何か凄く大切な事を忘れている気がするんだよな)

 そのことを思い出そうとすると、まるで思い出すなと言われているかのように、ズキリと頭が痛み、思考が遮られてしまう。

(一体、どんな記憶なんだろうな)

 ナルガの直感ではあるが、この封じられた記憶はとても重要で大切なもののような予感がしていた。

 あれこれ思案しながら歩いていると、盛大に腹の虫が鳴った。ナルガは反射的に腹を手で押さえ、足を止めた。

「そういや、朝から何も食べてないな」

 空腹を訴える腹をさすりながら、何を食べるか考え始める。

 この森は魔物が生息しているが、猪や野兎などの動物も多数生息している。果実類も豊富で近くに小川も流れているため、水にも食料にも困ることはない。しかし、食べるものが多いのも困るものである。あれも食べたい、これも食べたい、となり結局昨日と同じものを食べてしまう、食べるものを考えた結果めんどくさくなり適当に済ましてしまう、といった事がナルガに限った話かもしれないが起こってしまう。

「この音は……」

 出口探索は一時休止して食べるものを探して歩き始めたナルガの聴覚に、何かが流れる音が聞こえてきた。同時に涼しげな風が頬を撫でた。

 草むらをかき分けて、音が聞こえる方へ歩いていってみると、目の前に小川が現れた。遠目から見てもとても水が澄んでおり、とても綺麗な川だった。

「おお、綺麗だな」

 あまりの綺麗さに思わず声を漏らしたナルガは、川辺に近づいてしゃがみ込んで水面に顔を近づけて覗き込んだ。近くで見ると川の底の石まで透き通って見え、より綺麗さが際立っていた。

「こんなに綺麗な川は久しぶりだな。おっ、あれは?」

 感心しながら小川を流し見ていると、銀鱗で小柄な魚が五匹ほどで小さな群れを成しているのが目に映った。よくよくその群れを見てみると、一匹だけ黄金色の鱗の魚が目に留まった。

「……よし、昼飯アイツにしよう」

 食欲を刺激されたナルガは、川の中を優雅に泳ぐ黄金の魚に、獣の如き鋭い視線を向けて 舌舐めずりをするのだった。


 

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