#4 ゲーセン

 なんだかんだで日曜日だ。

 相も変わらず宿題はやってない。まあ、後でやればいいか。

 そんな思考が渦巻いていた。

 風呂にも入っていない。入るのがめんどくさい。

 風呂に入る事は意外にもエネルギーを使う。

 幸い、私は体臭が薄い方なのであまり匂わない。

 今日も今日とて希死念慮と戦っていくわけなんだけど……。


 部屋のドアを誰かが叩き、やがてドアが開く。

「アンタさ、風呂入ってないでしょ」

「……あぁ、うん」

「入っちゃいなさい。明日は学校でしょ?」

「うん」

 母から直々に来られては、入らないわけにはいかないので私は無気力な身体を立ち上がらせてタンスの引き出しを開けて下着を選ぶ。

 その行動を見た母は満足したのかドアを閉めて立ち去った。

 下着を選び終わった私は、なんだか動く気力が無くて床に座る。

 ……はぁ。ため息が溢れる。

 私のこの死にたいという気持ちは、あの日からいついかなる時でも消えない。

 天井を見つめる。前の家とは違う天井に、少しだけ心が削られる。

 もう前の家の天井を拝むことは出来ないのだ。悲しい。

 いやそれ以上に消えたい。

 結局、何時間ぐらいかずっと天井を見つめていた。


「あ、風呂に入ろ……」

 ふと思い出したように電源スイッチが押されて、私は下着を持って立ち上がる。

 青い下着。綺麗な深い青だ。

 階段を降りて、風呂場に向かう。

 二ヶ月経ってもこの狭い風呂場には慣れる気がしない。

 服を脱いで、下着を脱いで風呂に入る。

 シャワーで身体と髪を濡らし、椅子に座ってシャンプーを手に取る。

 頭につけて泡立てて……風呂に入ってなかったから一回では泡立たない。

 二回目でやっと泡立ったシャンプーで頭を洗う。終わったら洗い流して今度はリンスだ。

 リンスも洗い終わった私は特に湯船に浸かるわけでもなくそのまま上がる。

 ……ふと鏡を見ると、そこそこ膨らんだ胸とちんちくりんな私の裸体が映る。

 ふふっと笑ってそのまま風呂から出て身体を拭き、下着を着てパーカーとジーンズを着てドライヤーで髪を乾かす。


 ……色々あって、私はゲーセンに居る。

 歩いて三十分したら辿り着いた。

 もちろんお金は持ってきてある。急にゲーセンに行こうと家で思いついたからだ。

 流石はゲーセンと言ったところか。とても騒がしく色がうるさい。

 日曜日だからか人が多く、鬱陶しい。そして死にたい。

 適当にUFOキャッチャーの前に立つ。

 眼前には可愛らしい大きなぬいぐるみ達が広がっていた。

 このぬいぐるみを見るだけで良い気がした。

 どうせ百円も千円も投入しても取れないのだから見るだけで十分。

 何より私には取る気力がなかった。

「邪魔だよっ」

「……っ! す、すみません……!」

 一人の青年とぶつかり、私は脊髄反射で謝る。

 何故だろう。今は死にたいと思わなかった。

 人に迷惑を掛けるとこの気持ちは軽減されるのだろうか?


 ……結局、このUFOキャッチャーに五百円も費やしてしまった。

 当たり前だけどぬいぐるみの一つも取れなかった。

 その後は適当にスウィートランドで遊んでお菓子を手に入れた。

 こんなものか……私は特に何も感動する事もなく店内から出る。

 最近何をしても楽しくない。

 ただただ、死にたいというモヤモヤした不快感と絶望感に押し潰されるだけだ。

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