#2 ゴメンナサイ
お姉さんの部屋は散らかっていて、いわゆる汚部屋というやつだった。
足の踏み場もなく、衣服や空き缶などが散らばっていて匂いも少しキツい。
かといって別に掃除したいとかは思わない。
今の私にそこまで頑張る気力はない。
「んまぁ取り敢えずゆっくりしてってねぇ〜」
呑気な声でお姉さんはそう言い、ふらついた足でソファまで赴いてダイブして寝た。
私はと言えば、座布団に座って体育座りでスマホをいじってるだけ。
スマホをいじってると落ち着くけど、その間も死にたい気分が消えたわけじゃない。
明日は土曜日だけど、私の心は休まらない。
時が戻ればいい──何度そう思った事か。
引っ越しなんて望んでなかった。引っ越さない選択肢が選べるのなら迷わずに選ぶのに。
別にこの土地が嫌いなわけじゃない。
ただ単に引っ越しは私にとって物凄くストレスで辛いだけなのだ。
辛い、消えたい、死にたい。
自殺を図ろうと思った回数はもう数えるのがめんどくさくなるほどに。
父も、母も、弟も楽しそうだ。
なのに私の心は時が経つにつれて沈んでいくばかり。
やがていびきが聞こえ始める。
知らないお姉さんの部屋でスマホをいじるだなんてシュール極まりないけど、私にはそれ以外出来ることはない。
今のスマホのバッテリーは七十パーセント。
あとどれぐらい持ち堪えるのだろうか。
なんだか死にたいと言う気分がずっと消えない。
夜になると増してくるこの気持ちがとてつもなく辛くて吐きそうになる。
……瞼がだんだんと閉じようとしている。
視界がぼやけて、スマホを持つ手も緩くなっていく。
眠ってもまた明日が来て死にたいという思いが消えるわけじゃないのに──。
朝が来た。
バッテリーは五十パーセント。
背伸びをし、早速出ていこうとする。
私は何をやってるんだろう。そんな思いばかり止まらない。
余計に死にたくなった。
「んんーっ!」
お姉さんの声が聞こえる。振り向くと、背伸びをして瞼を擦っていた。
そんなお姉さんを見て私はまた歩き出す。
「……あ、アンタ誰っ!?」
お姉さんの素っ頓狂な大声が聞こえ、私は振り向く。
どうやら私の事は覚えていないらしい。
あの時は酔ってたから当たり前か。
完全にお姉さんの方に振り返った私は、お姉さんと目が合う。
「……え? 何これ? ……あたし、なんかやらかした!? と、取り敢えずアンタの名前を名乗りなさいよ!」
「……へっ!? わ、私ですか……? 私は愛花と言いますが……」
「愛花……? 聞いた事ない名前ね……。いっけない、あたし昨日酔ってたからそれで……」
「……も、もう帰りますので! ごめんなさい!」
私は気まずくなって、本当に駆け出していった。
心臓の鼓動が若干早くなっている。
マンションのエレベーターで一階まで降りて、そこから走って自分の家に帰る。
「ただいま」
「……おかえりっ! アンタ昨日どこ行ってたの!?」
ドアを開けてただいまと言うと、母が急いで駆けてきた。
顔は焦りの色が滲み出ていて、本当に心配してくれたんだなと思う。
だけど申し訳ない気持ちが止まらない。死にたい気持ちも。
この家には元々は別の一家が住んでいたらしいけどなんだかんだ私たちの一家が買い取ることになった。
もう二ヶ月も経ったのに、この家には慣れない。
いや、慣れないんじゃなくて私の心がこの家を拒絶している。
──私の心の針は二ヶ月前で止まったままだ。
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