第2話

気がつくと俺は病院のベッドにいた。


そして泣き顔の母と、初めて見る老夫婦が覗き込んでいた。




小学生当時の俺はよくわかっていなかったが、母は若い頃家出をして父と一緒になり俺を生んだらしかった。


そのせいで実の親に縁を切られていたようだった。


だから殴られても帰るところがなかったんだが、俺が大怪我をしたのをみてさすがに縁を切った親を頼ったらしい。


俺は祖父母の存在を、そのとき初めて知らされた。


そして怪我がよくなって退院しても、元の家ではなく祖父母の家に帰ることとなった。


気がつくと小学校も転校していて、今までとは違う苗字で呼ばれるようになっていた。




俺は殴られない生活になかなか慣れず、身を小さくしてしばらく過ごしていた。


そして何かしらの行事があると、緊張して、息をつめて過ごしていた。


だけど、どんなに警戒をしても、何も起こらなかった。


正月はお餅と、田舎らしい大根がたくさん入ったお雑煮と、それから初めてのお年玉をもらい


夏になると長袖の服は着る必要がなく、真っ白なTシャツを着て、転校して初めてできたたくさんの友達と遊んだ。




そしてまた花火大会がきたが、祖父母の家からは大きな花火も見えず地元のニュースで花火大会が無事に行われたことを知った。




ガリガリにやせていた母親も、実家でおいしいものを食べて見る見る健康そうに変化した。


もちろんサングラスも必要なくなり、夏は半そでのブラウスを着用するようになった。


いままでは気がつかなかったが、俺の母親は同級生のどの母親よりも若かった。今までの苦労と貧相な食生活が、実年齢より老けて見せていたのだろう。


着るものや化粧も気にするようになって、授業参観では友人に「お前のかーちゃん、美人だなぁ」なんて言われて、ちょっとばかり鼻が高くなる気分になれた。




そんな母親を周りも放っておくわけもなく、ある日母が働き出した先の同僚を連れてきた。


俺は中学生になっていた。




「君のお母さんとお付き合いをさせてもらっています。」


そう言った男の横で母が恥ずかしそうにしていた。


男は先妻を早くに病気で亡くしたらしい。


長く結婚など考えられなかったが、母と出会って気が変わった、と俺に話した。


思春期とか言われる年頃の俺ではあったが、男の横でニコニコしている母親を見たら別に反抗する気は起きず、幸せに慣れよカーチャンと背中を押したぐらいだった。

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