水路の掃除

 大抵の田舎ではそうだと思うのだけど、田畑に水を送る水路の掃除は、村人総出の作業だ。梅雨時よりも、田植えより前の雨の少ない時期に、水門を閉めて、泥を攫う。

 今はコンクリートで水路を固めるようになったからだいぶ減ったけど、昔はそうやって水路を攫っていると、魚やえびかにが獲れたものだという。それはざるにあけておいて、作業が終わってから、たてまつり、その後は村人が分け合って持ち帰る。

 ただ、そのときに、こいだけは持って帰ってはいけない、とされていた。鯉は可能な限り生かしたまま、水路に戻すのだ。


 ――水路の鯉は殺してはいけない。みずは様が祟るからだ。


 年寄りたちはそう言い伝えている。


 ※ ※ ※


「変なところに食のタブーがあるね?」

「いや、食のタブーって訳でもないんですよ。川の鯉は普通に釣るし食べるんですよ? もっとも、渓流に近い感じの谷川なんであんまり鯉は釣れないんですが」

「何で川の鯉は祟らないのさ」

「さあ……」

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