戦火(前編)

 戦国時代の終わり頃、今のO市に居た殿様――大石を動かせと命じた殿様とはまた少し時代の違う別のひとだが――は、他の国の大名から激しく攻め入られていた。

「谷筋から攻めてくるであろう。村を仮のとりでとして使わせろ」

 と、侍たちは強引に村に押し入ってきた。

 村長むらおさの当主たちは話し合った。とうげの向こうのそのまた向こうでは戦が始まっているという。どうも他の国が攻めてくるのは確かなようだし、そうなればどの道侍たちが押し入って来るだろう。他の国の侍となれば、これまで村と殿様との間で保たれてきた関係も、壊されてしまうかもしれない。

 ――結論として、砦にされるのもやむを得ないだろう、と考えた。

「村には幾つかの触れてはならぬものがございます。それだけは御配慮くだされ」

「気をつけはする。戦になるまでは、な」

 侍たちも、これから戦になろうというのに、縁起の良くないモノ――たたるようなモノなんて本当は触りたくないのだ。極力のお怒りに触れぬよう、村人に案内を請いながら、木を切り、土を積み、兎に角村の外れの道をふさぐように、きゅうごしらえの砦を作っていく。


 そうしている間に二週間ほどが経ち、果たして敵軍がやって来た。急拵えの砦にしては粘るが、後詰ごづめが期待出来るわけでもなく、ジリひんであった。


「神々の祟りを、敵に振り向ける訳にはいかんだろうか?」

 誰からとも無く――侍からなのか村人からなのかも良くわからない――そういう意見が出た。例えば、わざと神域の土を侵させる、わざと水路を壊させる。そういう行動をとるように敵を誘導できれば、祟りは敵に向かうのではないか? と言うのだった。

 村長と草分けたちは話し合ったが、意見は割れた。

「全ては村のため、わしらが生き残るためだだ。神々を冒涜することにはなるまい」

「神々を謀るようなことをすれば、結局わしらが祟られることになろう。最悪、しまってもおかしくは無い」

 結局、話し合いはまとまらず、神主かんぬし神託しんたくを請うこととした。


 ※ ※ ※


「あ、この話前後編ですんで」

「さてはオチ考えてないな?」

「だから昔話なんですから僕がオチ考えてる訳じゃないですってば」


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