ほむら様のこと #1

 は、火の神様だと言われている。昔はかまどや囲炉裏いろりまつったのだとか。火は基本的に人のおこすものだから、たたる話は多くない。


 ※ ※ ※


 昔々、P村が開かれてまだそれほど経たない、しかし野分のわき様が御隠れになって少し後のこと。

 P村に、あるお坊さまが来た。何しろその頃は、様々な「あたらしい御仏みほとけの教え」が出てきていた時代で、そのお坊さまも禅の教えを広めようと諸国を行脚あんぎゃしていたらしい。

 ――その頃のP村には、まだお寺が一つも無かった。勿論たちも御仏の教えを全く信じない訳でも無かったけど、御社を建てるだけで精一杯だったようだ。

 そこでお坊さまはしばらくP村に留まることにした。御仏の教えを説いた。墓に行き、既に亡くなった人々に幾らか供養くようをしたりもした。村人と一緒に田畑を耕しもした。村人たちは、お坊さまにいおりを作ってやった。


 ある晩、お坊さまが庵の囲炉裏に当たっていると、火から不思議な影が立ち現れて言った。

『火に仏性ありや』

 禅の公案こうあん――常識のかせを外して『悟り』に近づけるよう考えてごらんなさい、的なお題――をもじった問いかけだった。

 お坊さまは少し考えると、囲炉裏の炭に灰を被せて――つまり火を消してから、答えた。

 火が消えたのと同時に影は消えた、という。

 

 ほむら様はそれでよしとしたのかどうか。少なくともお坊さまが祟られたという話は無いし、そのお坊さまが立てた寺は、今までP村で続いている。


 ※ ※ ※


「――オチは?」

「無」

「無じゃないが?」

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