のわき様のこと #4

 さて、野分のわき様と数名の人々が海辺の村を出て流離っていると、既にある村に立ち寄ると色々軋轢があって受け容れられないので、誰もいない地を求めて山奥へ山奥へと進んでいった。

 野分様たちが最後に、後に「P村」と呼ばれるようになる土地に立ち寄ったとき――そこには、何も無かった。そう言い伝えられている。


 ※ ※ ※


「いや何かはあるでしょ」

「おや早かったですねヒ●じい」

「誰がヒ●じいか。村は無くても、山とか谷とか森とか岩とか、何かはあるでしょ。何かは」

「いえヒ●じい、それが無かったんですよ」

「だからダーウィ●がきた口調やめろよ」


 ※ ※ ※


 何も無かった――少なくともそういう風に見えたのだろう。気がついたらそのような場所に彼らは迷い込んでいた。もやのようであり、光のようであり、闇のようでもあった、という。手を伸ばしても壁は無く、歩めはするけど地面を踏む感じがしない。いくら進んでも元の場所に出られる感じがしない。

 幾ら歩んでも無駄だと気付くと、人々は自然と野分様の方を見た。

 野分様はあたりを見渡すと、目を閉じた。瞑想をしたのか、考え込んだのか。

 やがて野分様は杖を捧げ持つと、何かを探るように、ぐるぐると回した。何も無い場所を、混ぜ返すように。

 するとそこから、虹色に輝く蛇と魚と蜥蜴とかげが出てきた。

『何を欲する』

 ソレらは野分様に告げた。野分様はソレらの名を呼ばわった。

厳土いつはに巌命いわおのみこと水分みくまり瑞羽命みずはのみこと宵照よいてる火群命ほむらのみこと

 名を呼ばれたソレらは虹の光をばらまきながら姿を変え、土となり、水となり、火となった。たちは、それを見た。

「我らに安住の地を与えよ」

 そうして無でなくなったそこには、谷間の村が、あった。


 ※ ※ ※


「え? なに? 創造神話?」

「というより審神者さにわの権能の話だと思ってるんだけどね」

 

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