草分け #1

 野分のわき様と一緒にP村にやってきて、村をひらいたと言われる数人、その直系の子孫とされるのがの家だ。

 草分けの祖たちは、野分様と共に峠に登りを鎮め、をなだめ、を安んじて、村の四境を定めた。そして、最後に野分様のむくろを葬り、魂を祀った、という話。

 草分けの家の当主自身は、村長むらおさだの庄屋しょうやだの神主かんぬしだのにはならなかったらしい。何故なら、そんな仕事は分家に任せるべきものだからだ。村長でも治められない揉め事、神主一人では鎮められない祟り、そのような時にこそ、草分けの当主が集まり、話し合う。

 そうして、古い智恵を、或いは古い決め事を持ち出して、物事をのだ。

 今P村に残っている草分けの家は四つ。他の幾つかは昭和までに断絶するか、かしたらしい。


 ※ ※ ※


「――で、今でも草分けが黒だと言えば白いモノも黒くなる、と?」

「まさか。今時、草分けにまとめてもらうほどの事なんて起きないし」

「ふうん……まさかあんたが草分けの一人とか?」

「ないないそれは無い。だいたい、村から出たらそれはんだ」

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