かたしろ流し

「じゃあ埋め場に立ち入ったら死ぬの? そういう訳でもないんでしょ?」

「埋め場に立ち入ったりしたときには、やっておかないといけないことがあるんだ。大体はそうするから、まず本当に死んだひとは居ない」


 ※ ※ ※


 祟られる、と思われることが若しあれば、「かたしろ」を作れ、とお年寄りはいう。

 まず人形を作る。ぼろ切れでも藁でも棒でも何でもいいけど、兎に角手足と顔がある形に作らないといけない。人形を作る間は風呂を使ってはならない。

 人形が出来上がったら、それに髪を結わえ付け、息を吹きかける。あとは、それを夜に、谷川に流しに行くのだ。

「いわお様、諸々の穢れ祟りを留めることなかれ。みずは様、諸々の穢れ祟りを遠くに流したまえ。のわき様、諸々の穢れ祟りを飛ばしたまえ。浮かず沈まず疾く遠ざけたまえ」

 唱えながら流し、家に帰ったら風呂を使う。


 ただ、――数年前、これを流しに行こうとして間違って谷に落ちたひとがいて、それからは行われていないのだという。少なくともそういうことになっている。


 ※ ※ ※


「なんか神様増えてない?」

「誰がしか村の神様いないって言いました?」

「それはそうと、これ単に流し雛の類よね?」

「うーん、流し雛ってなんか定例的なお祭りになってません? これは祟られてるときにだけやるヤツなので……」

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