土葬

 P村では、少し前まで土葬が普通だった。

 死人が出たら、湯灌ゆかんをして、樽のような棺に死体を入れる。座らせるような格好になったらしい。何しろ死体は自分で動いてくれないから、数人がかりで担ぎ込む。

 蓋を打ち付けたら、棺を簡単な輿こしに入れる。担ぐのは、死んだひとと近しい男性たち。前後を女子供が付き従うのだという。

 村外れまで来たら、穴を掘り、棺を埋め、卒塔婆を立てる。そうしてそこで簡単な読経をすると、人々は引き返していき、家で本格的な葬式をあげる。

 四十九日、三回忌、五回忌、といった法要でも、家や家の近くの『墓石』には詣でても、死体を実際に埋めた『埋め場』には行かないのだという。少なくとも、P村では。


 埋め場では、動かないはずの棺が、みしり、みしりと音を立てる。だから埋め場に行ってはならないよ。行っても振り返ってはならないよ。からね。

 と、お年寄りたちは言うのだ。


 ※ ※ ※


「やっと少しホラーみが出てきた!」

「ホラーじゃありませんってば」

「でもさあ、埋め場で音がするって、ぶっちゃけ棺や死体が腐ってガスが出たり空洞が凹んだりしてるだけなんじゃない?」

「いやでもみしりって音するらしいんですよね」

「え? 土葬無くなったの何年前て?」

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