洞窟詣で
これはばあちゃんから聞いた話。
明治の頃、村外れの谷間の洞窟に数人でやってくる余所者がいたそうな。
四月頭、十一月頭、冬至の頃。黄昏から日暮れにかけて。目深に蓑や帽子、外套などを羽織って、敢えて道も無い崖側を岩を摑むようにして通り、洞窟の中に入っていく。洞窟の中に入って漸く灯りをつけるらしく、夜には洞窟の入口がぼんやり光るのが、対岸の道から見えたらしい。
『あれは何だろうね』
『おおかた
村人はそう言って彼らと洞窟には近寄ろうとしなかったし、余所者の方も徹底して村には立ち寄りもしなかった。
さて昭和になって、村沿いの道が狭いので、崖側を切り通してバイパスを作ろうという話になった。
もうその頃には余所者の洞窟詣でもすっかり絶えていたのだけど、しかしその頃はもう隠れ切支丹の風俗(かも知れない)というと逆に観光客を期待できるような世の中だったので。
『崖を崩す前に洞窟を調査してほしい』
という話になった。
村人数人と学術調査団で、雨量の少ない時期に川を渡って(砂防ダムとかの影響で、谷川は明治の頃よりだいぶ流れが減ったらしい)洞窟に行ったのだけど。
――そこには何もなかった。期待されたような切支丹遺物も、灯明台の痕跡も、煤すらも無かった。ただの自然の洞窟で、幾らか珍しげな陸貝と蝙蝠が居たくらいだったという。
何もないなら仕方ない、とその洞窟は呆気なく崩され、バイパスになっている。
※ ※ ※
「いや、不思議どこよ」
「痕跡残ってないのが不思議ってことでいいんじゃないですか?」
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