のわき様のこと #1


 O県P町の谷に昔からのお社があって、正式な名前はまた別に厳ついのがあるのだけど、土地のひとは『のわき様』としか呼んでいない。

 八月の新月の夜になると皆でそこに虫を持って集まって、紙や枯れ枝、何枚かのおふだと一緒に焼く。

『のわき様、のわき様。虫を払い給え。風に乗せて山の果て、川の外にまで飛ばし給え』

 唱えながら火の周りで、めいめい太鼓を叩いたり鈴を鳴らしたりして思い思いに踊る。

 そうやってその夜が明けて暫くすると、その年最初の台風が来る、とお婆さんたちは信じていた。


 ※ ※ ※


「いやそれ、普通に虫送りの祭りだよね? 斎藤実盛じゃないんだ?」

「うーん……余所の虫送りと違って、なんかウンカとかの稲の虫に限らなかったんだよね。こう、アブラムシ持ってくるひととか、カメムシ持ってくるひととかスズメバチ持ってくるひととかいたし。ウジやゴキブリが出てきたときはちょっと引いたけど」

「害虫オールジャンルか!」

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