6.神さまの見えてるうちが花らしいです

「ただいま」

「おつかれさん」


 神さまが来て、三日経った。思いのほか、優那ゆなの面倒をよく見てくれている。


 言葉がうまく出なくても、神さまには問題にならない。お腹がすいたとき、お人形で遊びたいとき、お散歩したいとき、優那の気持ちを察して、相手してくれているらしい。


 事情を知らなかったら、兄と妹みたいに見えるかもな。


「誰がにいちゃんやねん」

「よかったら、ベビーシッターとして働いてもらえません?」

「神さまが、人間に雇われてたまるか!」

「ていうか、神さま、いつも家でなにしてるんですか? 優那の相手以外に」


 神さまは、フフンと鼻でわらうような顔をした。


「言うたやろ。善人を探しとるんや。半径五十キロで起こることくらい、目ぇつぶっててもわかる」

「で、見つかりました?」

「さっぱりやわ」

「おつかれさまです」


 探してもムダだろうな。そもそも、神さま、全知全能のはずなのに、どうして人間みたいに不完全なもの、造ったんだろ? 中途半端なもの造っておいて、後から滅ぼすなんて、理不尽だと思うけど……。


「お! ええとこ、ついてくるやん! 何でやと思う?」


 とりあえず、勝手に思考を読むの、やめてほしいです。


「ジブンこそ、言葉使うの、あきらめかけとるやん?」

「でも、ほんとに、どうして人間なんか造ったんですか?」

「実はな、神さまって、孤独やねん」

「知りませんて、そんなの」

「寂しいわけちゃうねん。でも、神さまっていう超ゴージャスな存在が、この世にたった一人だけって、もったいない思わへんか?」


 神さまは、真剣な表情で問いかけてくる。


「一人だけでも、十分にウザいので」

「神さまみたく、ホンマに自由な存在が現れたら、世界はもっとゴージャスになるかもしれへん」

「はあ……」

「せやから、人間が自分の自由をちゃーんと使いこなせるようになるか、ワイも楽しみに

「過去形なんですね」

「ほぼ、過去形や。神さまが人間のことを気にかけてるのも、今のうちかもしれん。ホンマは、人間にとって、神さまがこうやって見えとるうちが、花なんや」

「花、ですか」

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