3.身元のしっかりしたお客さまです

 このドヤ顔の少年、マジで神さまなの? 声や外見は、ショタっぽいけど、中身はオッサンって感じしかしない。


「人類を滅ぼす……?」

「そう。でも、あと十日間だけ待ったろう思てる。それで一人も善人が見つからんかったときは、いよいよ決行や」


 本物かもしれないけど、ま、どっちでもいいか。どっちにしても、ワタシにはどうすることもできない。


「そうでもないで」

「勝手に心読むの、やめてもらえます? ほんと、用事あるんで、もう行きますね」


 明日の面接に来ていく服を急いで調達して、家に帰らないと。優那ゆなの面倒を見に、実家からわざわざ母が出てきてくれている。認知症の進んだ父を、独り家に残して。


 立ち去ろうとするワタシのそでを、また神さまがつかんだ。


「メグミちゃんに、ひとつ相談があるんや……」

「なんです?」

「十日ほど、泊めてくれへんか?」

「ご冗談を」

「あかんの?」

「絶対、ムリ」

「……滅ぼそか」

「待って! 早まらないで! ていうか、十日間の猶予は?」


 うちのアパートは、シングルマザーと女性単身者(DV夫から逃げている既婚者含む)専用だ。家賃は激安、礼金・敷金は不要だけど、男性の立ち入りは厳禁。違反がバレたら、即退去が待っている。


「心配いらんて。ワイ、このルックスやろ。息子や言うとけば、誰も疑わへん」


 また心のなかを読みやがった。


「それ、虚偽申告じゃないですか」

「ウソも方便、言うやろ」

「ええと、『善人を探している神さま』で合ってますよね?」

「タダでとはいわへん」

「え……? くわしく!」


 神さまは、ポケットから、いかにも札束が入ってそうな封筒を取り出して、チラリと中身を見せた。十万くらいはありそう……。


「二十万や。ニセモンちゃうで。れっきとした日本銀行券や。ほれ!」


 そういうと、神さまは封筒をポンと手渡してきた。


「だから、ダメって言ってるじゃないですか!」

「心のなかは、別のこと言うとるようやけど」


 クソ。いちいち腹立つ。神さまというより、反社会的勢力?


「失礼な。この上なくしっかりした身元や。神さまやぞ」


 これだけのお金、正直、のどから手が出るほど欲しい。


「ほな、決まりやな!」

「ええと、仮定の話ですけど……もしうちにお泊めしたら、ワタシは善人ってことになるんでしょうか」

「んなわけあるかい。対価もろうて人泊めるだけで、善人になるなら、ホテルマンはすべて善人になってしまうやろ」

「ですよねえ」

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