2.神さまはお怒りのようです

 どこかに落としてないか、キョロキョロ探していると、後ろから誰かが、ワタシのパーカーのそでをつかんだ。もう、誰だよ?


 振りかえると、小さな男の子が立っている。背はワタシの腰くらいしかない。女の子かと思うほど、可愛らしい顔立ちに、柔らかそうなサラサラの髪。小学校低学年くらい? 迷子?


 イライラする気持ちをおさえ、つとめて笑顔をつくりながら、ワタシは尋ねる。


「ええと……どちらさま?」

「誰か、わからへんのか?」


 関西の子? ていうか、なぜタメぐち


「え? 前にお会いしたこと、ありました?」

「初対面」

「うーん、じゃあ、わかんないかなぁ」


 ああ、これ、ヤバいやつだ。かかわらないでおこう。


「ヒント、やる」

「あの、忙しいので。もう行きますね」

天上てんじょう天下てんげ唯我ゆいが独尊どくそん

「ハ?」

「右のほほを打たれたら、左の頬も差し出しなさい」

「ヘ?」

「لا إله إلا الله محمد رسول الله」

「いや、頼むから日本語で言って!」


 なんなの、こいつ? こっちは、それどこじゃないのに!


「にぶいやっちゃなぁ。かみや、神!」

「ええと、どちらのカミさまですか?」

「名字ちゃうわ。THE 神さま! 唯一無二の存在や! 全知全能、わかるやろ?」

「神さま? 関西出身の?」

「肉体生成するとき、言語設定ちょっとミスっただけや」

「……全知全能とは?」


 なんか、周囲の視線が気になるな。


「えっと、とりあえず、手を放してもらえます?」


 お、すまんの、と言って、自称「神さま」は手を放した。


「で、その神さまが、なにか御用?」

「ワイ、怒っとんねん」

「ワタシに?」

「メグミちゃんだけの話やあらへん」

「え? ワタシの名前……」

「ん? ジブン、角田つのだめぐみちゃんやろ?」

「ですけど、どうしてそれを?」


 マジで、神さまなのか、この人?


「この『紹介状』、ジブンのとちゃうんか?」


 アンタが持ってたんかい! ワタシは、紹介状を奪いかえした。


「そういうとこやで」

「はい?」

「ワイが腹立てとんのは、人間のそういうとこや」

「といいますと?」

「落とし物、拾うてもろたら、なんか言うことあるやろ?」

「あ……りがとう?」

「ございます!」

「ありがとうございます」

「ほんでええ」

「それではまた」


 さっさと家に帰ろう。


「まだ話、終わってへん」

「ほんと、勘弁してください。今メチャクチャ忙しいので」

「この街で、一人のも見つからんときは、もう街ごと思てる」

「ああ、殺してほしいやつ、山ほどいるから、ちょうどいいです」

「人類まるごと殲滅せんめつや。メグミちゃんも優那ゆなちゃんも、みぃんな一緒」


 え、どうして長女の名前まで知ってるの?


「せやから、ワイは全知全能や、言うとるやんか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る