第1話②

 


「あ、すみません!!ごめんなさい!!」


背の低い私は相手の顔を確認する為に恐る恐る見上げて……その先に有った顔に思わず声を上げてしまった。


「うげっ!……なぁんだ。謝って損した。私の時間返して?」

と悪態を付いてしまった。


「別にそんな痛くなかったから良いけど、うげっ!てなんだ、うげっ!て。ひどくね?」


困った様な呆れた様な顔をしながら私を見下げてくる相手に更に私は続けて言った。


「大丈夫、酷くないから♪普通、普通。通常運転だよ?てか、優樹おはよー。」


「はぁ…、オハヨウゴザイマス。」


納得出来ないと云う表れか呆れたように小さく息を吐き、カタコトの様に棒読みのおはようが帰ってきた。


彼の名前は佐田 優樹(さた ゆうき)。

小学校5年から同じクラスで透の親友みたいな存在の奴である。

透と仲良いからか私に絡んで来る事もあるし、からかってくる事もあるし、意気投合する時もある。まぁ、仲はいい方……かな、不本意だけど。

まぁ透とゆりと私と優樹。

いつものメンバーっちゃ、いつものメンバーである。


「ゆっきー、おはよう。今来た?」

「優樹君おはよう。」


私と優樹が話している事に気付いたゆり達が優樹に声をかける。


「おはよう、お二人さん。さっき来てクラス表見終わった所に深咲のポニーテール攻撃喰らった。」


当たったらしい肩から首付近を軽く擦る仕草をする。


さっきはそんな痛くないって言ってたけど実はポニーテール当たるのって結構痛いやつだよね……?


少しだけ考えて私はもう一度謝る事にした。

優樹のブレザーをクイッと引っ張りこちらを向いてくれた所に声を掛ける。


「優樹、ごめんね?」

「あぁ、いーよ、別に。」


すぐにブレザーから手を離しこちらを見てくれた優樹に謝ると優樹は素っ気無くだがすぐに許してくれた。

どうやらポニーテールをぶつけた事はさほど気にしていない様だ。

良かった。


そんな私と優樹を見ていたゆりが軽く微笑みながら優樹に向かって話す。


「今年1年間、みーちゃんの事よろしくね?」

姉が妹を心配する様な感じのニュアンスに聞こえた様な気がする。

姉も妹も居ないけど。なんとなくそんな気がする。気がするだけ。

そんな小百合へ優樹がした返答は……。


「おっけー、任された。」

軽く微笑み返して楽しそうに言っていた。

こっわ。裏あるんじゃない?


私の事をからかう気満々な笑顔の優樹に向かって透も声を掛ける。


「ゆっきー、俺と離れて寂しいからって浮気すんなよ?」


わざと表情が読めないニコニコ笑顔で透は言っていた。


「……BLしたっけ?俺。てかさ発言的にさゆちゃんへの浮気じゃん、ソレ!!」


一瞬キョトンと固まったかと思いきやすぐに復活して笑いながらも目線を小百合へと向けた。


もちろん助けを求めた筈の視線だと理解している小百合と私。

ニコニコしている透。


小百合の返答は助けを求めた優樹の期待をちゃんと裏切っていた。

もちろん私と透には分かっていた事だ。


「優樹君はやっぱり受けよね?」


「えー?透が攻めかぁ。そうだよねぇ、優樹が攻めって変だもんね。うん、納得♪」


キャッキャと小百合と私で話を弾ませている傍らで透がポンと優樹の肩を叩いた。


言葉は無かったがきっとこう、諦めろ。とかそういった意味でなんだろうなぁ、多分。そう思う絶対。


「あー、そこの女子二人!止めぃ!」


「「あはははははは」」


諦めたのか呆れたのか困った顔で止めに入った優樹が可笑しくてゆりと私は笑ってしまった。


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