第100話 配信 狂い始める歯車


「うわ…………こりゃ酷いな」


 一度後方まで退避してきた俺は、ジャイアントタイラントワームの起こした土埃の量を見てそんな声を漏らした。

 というのも、近くにいた時も感じていた通り、もはや土埃が多すぎてそれは砂嵐と言った方が正しいところまで来ていた。

 その影響で遠距離攻撃組も狙いを定められず、攻撃をできないでいる。幸いモグラを対処している方までには影響を及ぼしていないようなので、モグラによる戦線の崩壊はなさそうだ。ジャイアントタイラントワームを相手している近距離組も、危険を感じたら退避すればいいだけではあるので、戦い辛くなっていること以外の脅威はないだろう。


 とはいえ、当然視界はクリアな方がいいに決まっている。俺はメルの『攻撃強化』を『突風』に切り替えると、モグラの方にも遠距離組の方にもかからないように立ち位置を調整し、メルに『突風』を発動させた。


「これでどうにか…………流石に全部とはいかないか」


『お』

『視界マシになった?』

『よくわからんがナイス』


 ちょっとした障害物くらいなら吹き飛ばしてしまうくらいの威力があるメルの『突風』だが、今回の土埃は一部だけ────いや、ジャイアントタイラントワームが巻き起こした土は全部吹き飛ばしたのだが、今ジャイアントタイラントワーム周辺に巻き起こっている土は『突風』の勢いで巻き起こった土か。


「お兄ちゃんちょっと!吹き飛ばされるかと思ったじゃん!」

「ん?ああ、悪い」


『www』

『そうだったのか』


 たしかに、ジャイアントタイラントワームに向かって『突風』を使えば近くにいる人は吹き飛ばされそうに決まっている。ちょっと考えなしだったかもしれないが、視界をどうにかしたということでトントンということにしておいて欲しい。

 それと、奥の方で吹き飛ばされたらしき人が転がっているのは本当にごめん。


「まあいいや!ちょっとこれ定期的にジャイタンに移動してもらわないと厳しそうだから…………どうしよう?」


『誰かがヘイト取って走り回れ』

『じわじわ移動しながらやるしか』


 ネイカが作戦を考え始めたのも束の間、視界が晴れたことにより好機と踏んだ遠距離攻撃組の攻撃が、ジャイアントタイラントワームに向かって飛んできた。

 その攻撃はジャイアントタイラントワームのHPを大きく削ったが、それと同時にジャイアントタイラントワームのヘイトが再び遠距離攻撃組の方へと移る。


「…………あ!ジャイタンそっち行く!障壁の人とお兄ちゃんでまた処理できる⁉」

「俺はいけるぞ」

「いけます!」


『いけます!!!!』

『頼もしい』


 先程と同じように、地中に浅く潜り遠距離攻撃組の方へと直進するジャイアントタイラントワーム。動きがわかっていれば敵の攻撃も怖くないというもので、先程と同じパターンでジャイアントタイラントワームの飛び込み攻撃を冷静に処理した。


「んでこっちに…………来ないのか!」

「やばっ!」


『まずい』

『障壁ニキが』

『障壁ニキーーーー』


 先程とは蓄積されていたヘイト値が違ったのか、ジャイアントタイラントワームは飛び込み攻撃から起き上がると、今度は障壁の人に向かって叩きつけ攻撃を繰り出していた。

 俺たちはというと、今回も俺へとヘイトが移ることを予想していたので、土埃をリセットするために先程の戦地から少し離れた場所へと駆けこんでいた。もちろん、直進で遠距離攻撃組の方へと駆けて行ったジャイアントタイラントワームとは別の方向へと移動していたので、ここから遠距離攻撃組の地点までは相当な距離がある。もっとも、メルはそこにいるので俺には問題な──────


「そうか!メルでヘイトを取ればいいのか!」

「ん?」


『?』

『どうした』


「ジャイタンの引き付けだよ。メルにあの土埃がどう影響するのかはわからんが、土埃が酷くなってきたらメルの攻撃でヘイトを取って俺の方にジャイタンを呼び寄せる…………いや、でもメルが居ないとなるとあの飛び込みが処理できないか?」

「そもそも耐えるんじゃない?」

「あー、たしかに」


 今回のイベントの仕様を考えれば、耐久系のパッシブを付けとけばあの攻撃でも耐えられるだろう。

 とはいえ、今はスキルを切り替えている余裕はない。障壁の人は何とか耐えているようだが、あそこには遠距離攻撃組しかおらず、いち早くジャイアントタイラントワームのヘイトを移さなければ甚大な被害が出てしまう。


「メル!頼む!」


 メルに『ブレイブアタック』を指示し、なんとかこちらへとヘイトが向かないか試す。しかし、『突風』のために『攻撃強化』のパッシブを外したメルの攻撃ではまだ足りないようで、ジャイアントタイラントワームは相変わらず障壁の人をターゲットにロックオンしていた。


「遠距離攻撃組は退避!近距離攻撃組は突撃!ヒーラー組は待機!みんな急いで!障壁の人はなんとか持ちこたえられる⁉」

「…………やばいです!」


『やばそう』

『素直』

『間に合ええええええ』


 魔法使いでプレイしているということは、当然近距離戦闘などほとんど経験がないだろう。状況判断力や咄嗟の対応は素晴らしかった障壁の人も流石に近距離戦闘までは心得ていないようで、逃げ回って被害を増やすことは避けていたが、ジャイアントタイラントワームの攻撃を捌ききれるわけもなく、じわじわとそのHPを減らしていた。

 そしてそれと同様に、ヘイトが移ることが怖くてヒーラーから回復を飛ばすこともできない。ネイカたち近距離攻撃組はなんとか間に合わせようと、必死にジャイアントタイラントワームの方へと走っていくのだった。

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