第99話 配信 条件付きパッシブスキル
「障壁張ってくれた人ナイスだよ!お兄ちゃんも!」
『ナイスううう』
『有能』
『障壁ニキー!』
咄嗟のファインプレーに歓声が上がる。
しかしそんなことを喜んでいる暇もなく、もっさりと起き上がったジャイアントタイラントワームが、今度は俺の方へと振り返ってきた。
ちなみに魔法獣のスキルによるヘイトの向き方だが、魔法獣の攻撃によるヘイトは魔法獣を出したプレイヤーへ、魔法獣のサポート行動や挑発スキルによるヘイトは魔法獣自体へ向けられる仕組みとなっている。つまり、攻撃行動しか行わない魔法獣は、「近くの敵を攻撃」などのヘイト値に関係ない攻撃にさえ注意しておけば、モンスターからの攻撃をくらうことはないのだ。それを意識した立ち回りも、魔法獣使いとして磨かなければならない技術である。
「んで、こっからどうするんだ?」
「うーん、流石に私のDPSじゃ遠距離攻撃組には勝てないだろうし…………いっそ苦手属性で攻撃してもらえばヘイト管理はなんとかなりそうだけど」
「それだとダメージがなあ」
『来るぞーーー』
『悠長に話してていいのか』
タンクを呼ぶにしても、あちらはあちらでもはや誰がどのモグラのヘイトを取っているのか不明な状況だ。そんな状況でモグラを連れてこられると不意打ちにより戦線が崩壊してしまう可能性もあるので、できることならこれ以上ジャイアントタイラントワームとモグラたちを交わらせたくはない。
そんな会話をしながら、俺は迫りくるジャイアントタイラントワームの叩きつけ攻撃を軽いステップでいなす。そしてネイカはヘイトを自分に向けるように、その体躯に『スラッシュ』をお見舞いした。
「よし!遠距離攻撃組攻撃開始!ヘイトが移っちゃったらさっきの人とお兄ちゃんでまたよろしく!」
「マジでか?」
「まーなんとかなるでしょ!近距離攻撃組はこっちにきて!できればモグラ側からジャイタンを攻撃するようにして、モグラが来てないかも確認してくれると嬉しい!」
『ようやく来たか』
『いつものセット?』
ネイカの戦闘出番が来て、コメント欄も湧き上がる。
それと同時に、今回のイベントで意識している、全員がボスへの攻撃チャンスを得られるようにというのはこれで達成したと考えて良いだろう。タンク組、近距離攻撃組、遠距離攻撃組、そしてヒーラー組も、少なくとも一回以上はボスへと近づくチャンスが来たわけだ。なお、これらに該当しないプレイスタイルももちろんあるのだが、わかりやすく分別するために無理やりこの四つに分けている。そういった人は、自分が一番近いと思える組に入ってもらっているというわけだ。
更に言うなら、それらを無視して個人の判断で動くことも禁止してはいない。ネイカの指示は、あくまで攻略が不安な人やある程度の攻略基準としての指示出しでしかないのだ。
ちなみに俺は何組なのかというと、何組でもなく自由にやらせてもらっている。俺の役割というのもまたかなり特殊なものだからだ。
「『スラッシュ』!『デュアルスラッシュ』!『デュアルスラッシュ』!…………ッ!」
『うおおおおお』
『やば』
『見えねえええええええ』
ジャイアントタイラントワームが暴れる度に、土埃が巻き上がる。それは先程まで遠くから見ていた光景ではあったのだが、実際に目の前でやられると視界がほとんど消えてしまうくらいには厄介なものだった。
そんな中でも、ネイカは出来る限りジャイアントタイラントワームに張り付いてスキルを連発する。本来ならばありえない速度でのスキル連打は、ネイカのお気に入りでもある条件付きパッシブスキルの『舞踏』によるものだ。
条件付きパッシブスキルというのは、取得するために必要なSPが多く、更に発動のための条件が必要になってくるので、その分強力な効果を得ることができるスキルだ。ネイカの取っている『舞踏(レベル5)』でいうと、『三秒以内に連続でアクティブスキルをヒットさせた時、そのアクティブスキルのクールタイムが45%~75%の間でランダムに10%の時間再び使えるようになるが、その時間を逃すとクールタイムが190%になる』というものだ。発動のタイミングにムラがある上に、逃した時のデメリットが大きい。スキルを自由に使いにくくなるし、いくらスキルのクールタイムが短縮されるといっても、発動のためのトリガー(魔法スキルの詠唱など)が長いスキルだとそもそも三秒以内という前提条件が満たせないし、スキル動作による拘束時間が長いスキルだと、次に発動させるスキルの三秒以内という条件が満たせず、コンボが途切れてしまう。しかも強力なスキルというのは往々にしてトリガーやスキル動作による拘束時間が長い上に、使用するべきタイミングも選ばなければならないスキルが多い。そうなると、この『舞踏』を発動させてクールタイムを大幅に短縮しようとしても、実質クールタイムが増えるだけのパッシブスキルとなってしまうことが多いということだ。(もちろん、それを乗り越えて強力なスキルを高回転で打つというロマンも秘められているが)
その反面、ネイカのような『クールタイムが元から短く、発動もスムーズでわかりやすい基本的なスキルを連打する』というプレイスタイルにはかなりマッチしている。もちろんスキル使用のタイミングを自由に選べなくなることは大きな弊害だが、そこを立ち回りでカバーするくらいの価値は大いにあるだろう。なぜなら、SFOはスキル攻撃でしかダメージがなく、スキルのクールタイムが半分になれば必然的にDPSも倍になってくるからだ。
そしてそんなネイカの舞踏を眺めているうちに、残りの二チームもスキルテイカーの発動を済ませてしまう。こんな土埃まみれの中で、誰がやったかなどわかるわけがない。なんなら近距離攻撃組が近づいてくるのを待って発動させた遠距離攻撃組という可能性もあるし、この状況でスキルテイカーを見つけるのは無理ゲーというやつではないだろうか。当初はわからない方が珍しいのではと思っていたが、蓋を開けてみればわかる方が凄いというやつだった。指名枠各チーム三つくらいにしてくれないと当たる気すらしないぞこれ。
「なんて考えてる場合じゃねーわ。俺も何かやること…………」
『土埃邪魔すぎ』
『見えない』
『クソボスやんけ』
戦闘中に色々考えてしまうのは俺の悪い癖だ。
配信的にも状況が悪いみたいだし、なんとかこの状況を打開する方法は…………あるにはあるのだが、それをするためには一度スキルをセットし直す必要があるのでテンシを引っ込めなければならない。
そう思ってタンク組の方を確認しようと思ったが、土埃が邪魔で見えない。もはやネイカも見えない。これはとにかく土埃を払うことが最優先だと判断すると、俺はジャイアントタイラントワームの戦闘音が聞こえる方から離れながら、一旦全ての魔法獣を引っ込めたのだった。
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