第98話 配信 強襲!第二形態
ネイカが指示を出すためにひとまずタンク組にヘイトを買っておいてもらおうと前線へ送り込むと、それを待っていたかのようにジャイアントタイラントワーム側からも動きがあった。
そしてそれと同時に、ジャイアントタイラントワームに突っ込んでいったタンク組の方から声が上がる。
「モブだ!モブが湧いてきた!」
『そういや今まで居なかったな』
『来るんだ』
たしかに、前回のフルアーマーミノタウロスの時は最初からモブがいた。パイレーツ兄弟の時は第二形態からだったので、もしかしたらパイレーツ兄弟の時のように途中でモブが湧くときには何かトリガーとなるものがあるのかもしれない。
そんな予想はさておき、まずはモブの確認だ。俺たちも少し近づいてタンク組の奮闘を確認しに行ったところ、今回湧いてきたモブは中サイズのモグラ型モンスターのようだ。
「逆だろ!」
「ミミズがモグラ使役する⁉」
『www』
『逆逆』
『さっきのもぐらたたきはこの伏線だった?』
いや、逆にモグラがミミズを使役してきてもそれはそれで違うだろとはなるのだが、それにしても逆だろう。なんてツッコまざるを得ないような光景だったが、意外にもミミズとモグラのコンビネーションは厄介なものだった。
「ヤバいね、薙ぎ払いがウザすぎるよこれ」
「さっさとバラけさせた方が得策じゃないか?モグラはタンク組に引き付けてもらって、ジャイタンは残りで何とか」
『いいね』
『分けないといつか瓦解するぞ』
というのも、モグラの攻撃が先程までのジャイアントタイラントワームの攻撃とほぼ同じものなのだ。それだけなら先程のように対処すればいいだけだが、ここでジャイアントタイラントワームの薙ぎ払い攻撃が悪さをしている。巨大な体から繰り出される薙ぎ払い攻撃は、その勢いで大量の土埃を舞わせるのだ。それにより、モグラが地中から飛び出してくる直前の演出がとても見辛いものとなってしまっている。
「タンク組は挑発スキル緩めて!遠距離組は一旦私の後ろに集まって、そこから全力でジャイタン攻撃!できれば氷属性で!ヒーラーは半分こっち来て!」
ネイカが急いで指示を出す。
これは最近言われ出したことなのだが、モンスターのヘイトを買うのに一番効率がいいのが有利属性で攻撃することだと判明したのだ。どこぞの検証班によると、純粋なダメージよりも有利属性で出したダメージの方が倍近くヘイトを買いやすいそうだ。
俺はそんなネイカの指示を聞きながら、タンク組の方にテンシを送り出しておいた。というのも、回復スキルにはそれなりの高倍率なヘイト値が設定されているので、ヒーラーが減ることによるタンク組の崩壊防止と、タンクのヘイトから外れてしまったモグラを手広くその場に留めておくためだ。どういう計算式かはわからないが、広範囲にリジェネを展開できるテンシのヘイト稼ぎは通常回復を行うヒーラーよりはかなり高いものとわかっているので、タンク<テンシ<ヒーラーの順でのヘイト管理ができるのだ。テンシより威力の高い範囲リジェネを撒いているヒーラーが居たら、話は変わってしまうが。
そしてネイカの指示通り、遠距離攻撃組が俺たちの後ろに集まると、集中的な攻撃が始まる。その半分ほどが氷属性によるもので、その攻撃の軌道は氷を基調とした鮮やかなコントラストを描いていた。
「ジャイタンのヘイト移ったよ!こっちに…………ってまた⁉」
「潜るのかよ!」
『まーた』
『陰キャ』
『ジャイタンくんさぁ』
などと俺たちが言ったのも束の間、ジャイアントタイラントワームは先程とは打って変わって明らかな移動の跡を残しながらこちらへと向かってきた。地面を耕した後のような、通り道が少し隆起する跡だ。
「さっきとちょっと違うかも!足元通られないように注意!」
『足元通られたら一気に来そう』
『こっわ』
ネイカの指示と共に俺たちは左右に分かれて回避したが、ジャイアントタイラントワームは俺たちに目もくれずそのまま直進していった。
「やっぱヘイト貰ったやつに直進か!」
「ヘイト取った自信ある人はその場で待機して!近づいてきたら一気に回避!それ以外の人は散開!」
『そうなるよな』
『むしろ今攻撃できそうじゃね?』
最後のコメントは試してみる価値がありそうなものだったが、どの道今回はもう遅かった。
とはいえ、今回のようにチャンスというのは往々にして一瞬の出来事だ。俺は今後似たような展開が訪れる予感を覚えて、メルを召喚しジャイアントタイラントワームの後を追わせることにした。
そして、やがてその跡はネイカの指示に応じてその場に残っていた人たちのところまで近づく。すると、その集まりの手前でジャイアントタイラントワームは一気に飛び出し、勢いそのままにその集団へ向けて突進していった。
「やばっ!」
「そう来るか!」
『うおあああああ』
『ホラーすぎ』
『こええええええ』
先程のように足元から垂直に飛び上がってくるとばかりに思っていた俺たちは、ジャイアントタイラントワームの予想外の行動に悲鳴を上げることしかできなかった。俺は咄嗟にメルの位置を確認したが、ここからではギリギリ届きそうにない。それに、仮に届いたとしてもあの勢いを打ち消せるほどの力は流石のメルにもないはずだ。
己の無力さに焦りを覚えた俺だったが、流石はあの指示を受けてその場にとどまることを選択した者たちというべきか、その中の一人が咄嗟に魔法の障壁を作るスキルを発動させると、ジャイアントタイラントワームの突進を少しだけ止めることに成功させた。
その間に散開する残りの人たち。しかし今度はその障壁を作ったプレイヤーだけが逃げ遅れ、再びを破ったジャイアントタイラントワームの突進が迫ってきた。
「今だ!『ブレイブアタック』!」
『やべええええ』
『オワタ』
『いい位置』
『メル!!!』
ジャイアントタイラントワームが障壁でもたついたおかげで、ギリギリ届く位置まで飛び込むことができたメル。問題だった勢いも障壁によって緩和されていたので、人一人分ズラすくらいの威力なら、メルにも出せるはずだ。
「行けえええええ!」
『うおおおおおお』
『めるううううう』
俺たちの応援と共に、メルがジャイアントタイラントワームの側面に『ブレイブアタック』を炸裂させる。ジャイアントタイラントワームはメルの攻撃によりほんの少しだけ仰け反って、障壁を作り出したプレイヤーのすぐ隣にその図体をダイブさせたのだった。
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