第96話 配信 イベントボス二体目・ジャイアントタイラントワーム
「うわ」
「でか!」
『うわぁ』
『きも』
『質感www』
ボス部屋に転送されるや否や、俺たちは参加者やリスナーも含めて阿鼻叫喚の騒ぎとなっていた。
その理由は、もちろんボスだ。イベント第二段のボスは、ジャイアントタイラントワームという、巨大なミミズのようなモンスターだったのだ。妙に滑らかな肌の質感がとてもリアルに再現されており、無駄に気持ちが悪かった。
それでも、ネイカは怯えることなく全体へ向けての指示を送る。
「みんな気を抜かないで!まずはタンク組が突撃!攻撃パターンチェック!」
『いいね』
『行きたくねぇ』
『タンク以外「タンクじゃなくてよかった」』
ネイカの指示に、まばらながらも突撃していくタンク組。俺もタンクの役割を持てるジェットラクーのジェットを呼び出して、ボスに向かって突撃させた。
ジェットラクーは高い移動力と挑発スキルを持った疑似的回避タンクで、魔法獣特有の敵の攻撃を受けて死んでしまっても問題ないという点が強みだ。とはいえタンクとしての性能に過度な期待は禁物なので、サブタンクや初見攻略の攻撃パターンのチェックには重宝する魔法獣だった。
そしてタンク組が突撃してから少し経ち、徐々に敵の攻撃パターンも解明されていく。ちなみにその間に緑色の光が場内を包んだが、当然遠くから見ていた俺たちには誰がスキルテイカ―だったのかわからなければ、そもそも自分のチームが何色なのかもわかっていない。それでもコメント欄にはネイカのわずかな視点から割り出そうとしているリスナーもいて、思ったよりも盛り上がっている様子だった。
「んー、あの叩きつけ攻撃は厄介そうだね」
「スタン付きだもんな。それに、図体がデカい分ただの薙ぎ払いも範囲がデカすぎて厄介だ」
『挙動がキモすぎる』
『動きが機敏すぎwww』
そのコメントの通り、やたら機敏に動く点も戦闘に影響を及ぼすレベルのキモさがあった。思わず怯んでしまうほどの迫力なのだ。
「うーん、近づいて攻撃は正攻法じゃないっぽいね。…………タンク組はそのままヘイト維持!遠距離攻撃組は少しずつ攻撃開始!火力自慢の人はヘイトを奪っちゃわないよう…………に⁉」
『え』
『やば』
『そうくるか』
ネイカの発言の最中、一発目のファイアーボールがジャイアントタイラントワームに向かって放たれた。するとどうだろうか。ジャイアントタイラントワームは驚くべき反応速度で地面へと潜っていき、そのファイアーボールを見事に回避したのだ。
そして、場内全体に小規模な地震のような揺れが起こる。
「みんな気を付けて!多分地中を移動してるから、どこから出てくるかわからないよ!あと、タンク組は散開してどこから出てきてもヘイトを取れるように!遠距離攻撃組は出てきたところなら回避されないはずだから、そこを狙い打とう!」
『それだ』
『冴えてる』
ジャイアントタイラントワームが潜ってから三秒も経たないうちに、そこまでの指示を出すネイカ。頭の回転が速いというか、この手のゲームに慣れているというか。どちらにせよ、見事な指揮だ。
そんな光る指揮を見せたネイカが、今度は俺に声を掛けてくる。
「お兄ちゃん、なんか地中に干渉できるスキルあったっけ?」
「地中か…………パッと思いつくのはアースクエイクとかだけど、まあまだ取れてる人はいないよな。ドロペも強化すればそれっぽいスキルはあったが…………『追い打ち』はさすがに地中まではいかないよな?」
「『追い打ち』かー…………あ、『追い打ち』は無理そうにしても追跡系の魔法はどうなるんだろ」
「んー、そっちもきつそうじゃないか?」
そう言って、先程までジャイアントタイラントワームがいたところへと視線を送る。そこから潜っていったはずのジャイアントタイラントワームだが、そこには穴などなく、ジャイアントタイラントワームが通った穴は自動的に塞がる仕組みとなっているようだった。
「じゃあ無理かなー…………ってうわぁ!」
「うお!」
『なに?』
『揺れとる』
『酔いそう』
突然強く揺れ出す地面。流石のネイカでもその揺れを抑えることはできないようで、画面の揺れに『酔う』というコメントが殺到した。
そしてよく見てみると、俺たちの足元から土が巻き上がるような演出が出ている。
「お兄ちゃん!」
「わかってる!」
慌ててその場から離れようとする俺たち。
おそらくこれは、ジャイアントタイラントワームがここから出てくるという合図なのだろう。ネイカは右、俺は左へと咄嗟に回避をして──────
「えっ?」
「嘘だろ⁉」
『え』
『収まった?』
突然収まる地面の揺れ。これはまさか…………
「ちょ…………待て待て!」
「一発目からフェイクする⁉」
『www』
『兄―‼』
『兄www』
ネイカの言葉の通り、先程の揺れはフェイクだったようだ。そして今度は、ダイブするようにして避けた俺の着地点に土埃の演出が。当然俺は、突然のダイブから綺麗な着地を決められるわけもなく、その地面に寝そべった状態となっている。必死に起き上がろうとしている間にその揺れは激しくなり、地中からジャイアントタイラントワームが勢いよく顔を出してきた。
「ウボァーーー!」
「お兄ちゃーーーーん!」
『4ぬwww』
『wwwwww』
『飛びすぎwww』
これが所謂ホームランという奴だろうか。俺はジャイアントタイラントワームに突き上げられ、どこまでも彼方へ飛んでいくのだった。
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