第95話 配信 イベント四日目。謎のスキルテイカータイム



「あ!お兄ちゃん!」

「おー」


 激動の一日が終わり、翌朝の八時。俺たちは最近の恒例となっている、スキルテイカーを探せのイベントをやっていた。

 今日はイベント四日目で、ボスの更新日でもある。更にイベントの切り替わり時間は八時となっているので、イベントボス第二段の最速攻略でもあるというわけだ。

 そんな四回目となるイベントボス戦でようやく、俺はネイカと同じチームに振り分けられたのだった。


「お兄ちゃんコメント同期しよ」

「そうだな…………よし、OK」


『きたああああああ』

『ようやくか』

『スキルテイカーは?』


 ネイカと同じチームということでネタバレも何もなくなった俺は、いつも通りネイカの配信のコメント欄を自分の視界に表示させた。

 ちなみに、俺は今回もスキルテイカーではない。それはネイカも同じようで、これで俺もネイカも四連続で外れとなる。

 実際問題五十人中四人がスキルテイカーになれるので、九日間のイベントすべてに参加したとしても、スキルテイカーになれる確率は丁度五割ちょっとといったところだ。そう考えると、俺もネイカもこのままスキルテイカーになれずに終わるという未来もあり得る話だ。

 ちなみにイベントのバランスに関してだが、流石に五十人もいると誰にもバレないでというのは厳しいようで、全チームにバレるとまではいかずともどこかのチームには確実にバレるといった具合だった。

 ネイカはそれを受けて、どこにもバレなかったチームが出たら『ご褒美』を出すという話を持ち出し、それによって参加するリスナーたちの気合も十分なものとなっていた。もちろん、見つける側として手を抜くことはしないようにとも再三言っている。


「じゃあ恒例のスキルテイカータイム行くよ!」


『うおおおおお』

『俺だ俺だ俺だ』

『毎回思うけどシュールすぎる』


 スキルテイカータイム。これは別に運営が用意したものではなく、ネイカがカンニングの対策として実装したものだ。

 俺がアイリたちと出会った、第一回目のイベント。事件は、その終わり際に起こった。

 ネイカは配信のカンニングを避けるためとして参加者をブロックしたわけだが、もちろんそれで完璧にカンニングを防げるわけではない。そもそもこのブロックは二度目の参加を防ぐ方が本来の目的であり、カンニング対策としてはついでのようなものだったのだ。

 実際、ネイカからブロックされたところでネイカの配信を見る方法はいくらでもある。なので、今回のイベント配信は参加者の善意を前提に成り立つものだったわけだが、ネイカも有名配信者というわけか、見事に荒らし行為をする人が出てしまった。

 その人がカンニングした方法は至ってシンプルなもので、参加していないフレンドの人にネイカの配信を見てネタバレを教えてもらったというだけだ。そんなものは防ぎようがないし、誰でも思いつくことでもある。とはいえ実際に問題として起こってしまった以上、次はしないように!では済まされない。それでも意地でも配信は付けるというネイカの意志から、そもそも自分のチームのスキルテイカーを知る必要がないのでは?というところに着眼し、その代わりとして『スキルテイカータイム』というスキルテイカーでもそうではなくても自由にスキルテイカーを名乗っていい謎の時間が導入されたのだ。スキルテイカータイムをやる意味は全くないのではと俺は思うが、盛り上がり的に必要らしい。

 そしてそのスキルテイカータイムは、こんなネイカの掛け声から始まる。


「スキルテイカーだーれだ!」

「はい!」

「俺でした!」

「私でーす!」

「いーや、俺だね!」


『俺な?』

『偽物は引っ込んでろ。俺だ』

『俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ』


 思わず失笑してしまう。何だこの茶番。

 ───なんていう思いもあったのは事実だが、実際に謎の盛り上がりを見せるチームメンバーとコメント欄を見ていると、失笑が本当の笑いに昇華していくような気がした。ゴリ押しの芸で笑いを取る芸人というのは、こんな感じなのだろうか。

 その後も祭りのような時間はボス部屋へと転送されるまで続き、俺も最後の方は本当に可笑しくて笑顔をこぼしていたのだった。


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