第93話 配信 揺れる帝国とアーシーの思惑
「にゃにゃ…………こういう時って何から説明したらいいのにゃ?」
「いや、知らないけど」
『www』
『知らねえよwww』
『漫才でもしに来たんか?』
キャビーの思わぬ言葉に、ネイカとリスナーたちも総出でツッコミをする。もちろんキャビーの話を知るのはキャビーだけなので、俺たちにできるアドバイスなどないというものだ。
とはいえ、これまでのキャビーのことを考えると、このまま話を待っていても碌な結果になるとは思えない。俺はそう判断すると、質問形式でキャビーの話を聞きだすことにした。
「とりあえず、緊急の要件ってのは何なんだ?帝国内で何かあったんだよな?」
「そうなのにゃ!反乱軍が遂に大きな動きを取ってきたのにゃ!」
『ほう』
『今かよ』
「大きな動きってのは?」
「帝国の北東方面にある、ティアノ村っていうところから反乱軍が蜂起したのにゃ!そこまでは最近の情勢を考えれば考えられることなんにゃけど、今回はそこの領主が皇帝に命じられても鎮圧に動く気配を見せないらしいのにゃよ。そこの領主はモルゲンス家っていうところなんにゃけど、元々きな臭い話が多かったらしいにゃ。それで、その蜂起は裏でモルゲンス家が糸を引いてるんじゃないかって話らしいのにゃ」
『マジか』
『初耳だな』
『ティアノ村って推奨50くらいのとこか』
『そりゃ出回らない情報だわ』
その話は多くの情報を仕入れているリスナーたちにとっても知らない情報だったようで、コメント欄が大いに盛り上がると共に、一気に話の話題性が高まったのか、視聴者数もどんどんと伸びてきていた。
俺はそんな期待に応えられるように、頭を働かせながらキャビーから話を引き出していく。
「デカい反乱が起きたってのはわかったが、それじゃあ俺たちは何で呼ばれたんだ?別にまだアールの街の危機って程でもないし、俺たちのレベルじゃまだ役には立てないだろ?」
「そうなんにゃけど、アーシーは今回の件を利用してドスレクマーク家の権威を示そうと思ってるらしいのにゃ」
「権威?」
「ドスレクマーク家の生き残りがアーシーだけになってから、ドスレクマーク領での抗争が特に増えているって話はしてるにゃよね?」
「ああ。単に反帝国の反乱だけじゃなくて、国内外問わずドスレクマーク家を引きずり落して自分たちがドスレクマーク領を治めてやろうっていう輩も多いって話だよな」
「そうにゃ。アーシーはこの時のために色々と準備をしてきたから反乱軍や何も考えずに侵略しようとする馬鹿共に負ける筋合いはないんにゃけど、さすがに数が多すぎて疲弊してきているのにゃ。奴ら、どれだけ蹴散らしても「今回で消耗したはずだから次こそは」なんて言っていつまでも湧いてくるのにゃよ」
「そりゃ大変だな」
『今日もなんか争ってたな』
『大変そう』
俺もそうだが、リスナーたちのコメントもどこか他人事だ。実際巻き込まれている話ではあるのだが、NPC同士の争いにそこまで思い入れられるかと言われれば微妙なところではあるだろう。
「それで、俺たちとその権威とやらがどう繋がってくるんだ?」
「にゃにゃ…………アタシもアーシーから話を聞いただけだから、本当のアーシーの思惑と合っているかはわからないんにゃけど、アーシーは帝国内の他領主や民へ向けて、異業との繋がりを示唆したいらしいのにゃ」
「示唆…………ってことは、表立って何かするって話ではないのか?」
「やってほしいことは、その反乱軍の鎮圧に参加してほしいって言っていたにゃ。今は誰が鎮圧に動くかで揉めていて、アーシーはネイカたちが参加してくれるならそれを買って出ようとしているそうなのにゃ。だから、なるべく早く返事がほしいのにゃ」
『思いっきり参加要望じゃん』
『示唆とは』
『つまりどういうこと?』
キャビーの話はアーシーの言葉の受け売りという感じでややわかりづらいが、おそらくはこういう話だろう。
まず、ドスレクマーク家は今家の力がかなり衰弱していると評価されている。それは民だけでなく他の貴族たちからもそうで、アーシーとしては度し難い扱いを受けているというわけだ。
とはいえ、実際のところは何も衰弱などしていない。なぜなら、こんな事態に陥っているのは他ならぬアーシーの手によるもので、彼女はこのために十年以上の時間を掛けて準備をしてきたからだ。
ただ、アーシーは民や他の貴族家からここまで下に見られるとは思っていなかったのだろう。予想以上の反応に、アーシーは何か動きを見せざるを得なくなった。そこで勃発したのが、今回の反乱というわけだ。
これは俺の目やネットでの話から推測されることだが、SFOがリリースされて半月以上の時間が経ち、俺たちプレイヤーの存在はNPCたちに十分に知れ渡っている。今は専ら俺たちプレイヤーとどう付き合っていくかというのがNPCたちの大きな話題でもあり、色々と意見はあれど、好んで敵対しようというNPCはいないはずだ。
そこでいち早く俺たちとの繋がりを作っていたアーシーは、『ドスレクマーク家はプレイヤーを抱えている』というカードを、舐めた真似をしてくる人たちへの牽制としてチラつかせることでこの事態を治めようとしているのではないだろうか。
なので、おそらくアーシーが俺たちに期待していることは、反乱軍の鎮圧で手柄を立てることではなく、鎮圧に動いたドスレクマーク軍にプレイヤーがいたということを周りに見せつけることだ。示唆という言葉の真意は、そういうことだと思われる。
それと鎮圧に動くことで失ってしまう戦力やなんやで釣り合いが取れているのかは不明だが、アーシーの決定に口を挟む気もなければ興味もない。ネイカの言葉を借りるならば、俺たちにとっての価値は『面白いかどうか』だけだからだ。
俺はそんな予想と共にネイカと話し合い、了承のサインをキャビーに返したのだった。
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